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アドラー心理学をわかりやすく解説|5つの理論と活かし方とは

「アドラー心理学って、どのような内容なんだろう?」
「若手社員を励ますのに使えるだろうか?」

このようにお悩みではありませんか?

2013年に発刊された『嫌われる勇気』はドラマチックにアドラー心理学を伝える自己啓発書です。同作の大ヒットをきっかけに、アドラー心理学は広く世に知られるようになりました。ポジティブに生きるヒントが多く語られているため、企業向けの研修にアドラー心理学を活用する例も多く見られます。

本記事では、アドラー心理学の内容について噛み砕いて解説します。重要な部分に絞って解説しますので、アドラー心理学の全体像を掴むのに役立つでしょう。

より知識を深めるために、おすすめの書籍も紹介します。ぜひ最後までご一読ください。

なおミイダスでは、「部下のモチベーション管理やメンタルケアを行うため、参考までにアドラー心理学の考え方を学んでおきたい」と考えている方向けのお役立ち資料をご用意しました。部下のコンディション管理を徹底したいと考えている方は、ぜひ下記からダウンロードしてください。

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アドラー心理学とは

アドラー心理学とは、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)が提唱した心理学のことです。「アドラー心理学」は通称で「個人心理学」が正式な呼び方です。しかしこの呼び方は、日本ではあまり知られていません。

アドラーはフロイトやユングに並ぶ心理学三代巨頭の一人です。現代の自己啓発に影響を与えたため「自己啓発の父」とも呼ばれます。

アドラー心理学では「誰もが幸せになれる」という前提のもと、人が幸福になるために大切な5つの理論(自己決定性・目的論・全体論・認知論・対人関係論)を展開しています。理論に裏打ちされた具体的な技法も論じているため、非常に実用的な心理学と言えるでしょう。

アドラー心理学を学ぶことで、自分の気持ちと向き合いコントロールするきっかけになります。これによって私生活だけでなく、ビジネスにとっても良い影響が期待できます。たとえばクレーム処理や謝罪対応など、感情的になりやすいビジネスシーンでも冷静な対応を行いやすくなるでしょう。

アドラー心理学の全体像

アドラー心理学の全体像の図
アドラー心理学は技法・理論・価値観の3つの柱で構成されています。

アドラー心理学が最終的に目指すのは「共同体感覚」を養うことです。共同体感覚を養うために必要な「理論」を5つの基本前提にまとめ、理論に沿って人を援助する具体的なテクニックとして「勇気づけ」という技法を提唱しています。

共同体感覚や5つの基本前提、勇気づけについては後ほどくわしく解説します。

アドラー心理学が広まった理由

アドラー心理学が広く知られたきっかけは、岸見一郎と古賀史健共著の『嫌われる勇気』の大ヒットにあります。『嫌われる勇気』がベストセラーとなった理由について、精神科医の樺沢紫苑氏は次のように言及しています。

「ベストセラーは時代の空気感とマッチして生まれるもの。時代の空気感とアドラーの思想がマッチしたため大ベストセラーとなったと考えられる」

『嫌われる勇気』が発刊されたのは、2011年の東日本大震災からおよそ2年後のことです。過去を過去として受け入れ、未来に向かう方向性を示すアドラー心理学は、未曾有の大災害から立ち上がる日本人の希望となったのかもしれません。

また現代はSNSの発展に伴い、対人関係がさらに難しくなっています。「すべての悩みは対人関係の悩みである」というアドラーの洞察は、悩みが深いからこそ、より現代人の心を掴んだのでしょう。

参考:なぜ今、アドラー心理学がブームなのか?【精神科医・樺沢紫苑】|YouTube

フロイトとの違い

ジークムント・フロイトは、アドラーやユングと並んで有名な精神学者です。

フロイトは「人間の行動には心理学的な裏付けがあり、そのほとんどが夢(≒無意識)に現れる」と考えています。行動の動機には何らかの過去のトラウマがあり、それが現在の行動につながっていると主張しているのです。

一方アドラーは「将来の目的を達成するために人間は行動している」という考え方です。過去のトラウマについても「過去の経験(トラウマ)そのものが自分を決めるのではなく、経験を通して見いだした意味が自分を決定する」というのがアドラーの考え方です。

ユングとの違い

精神学者のカール・グスタフ・ユングは、人間は「2つの態度と4つの機能」で分類できると主張しています。また人間には「集合的無意識」という人類共通の深層心理があるとも考えていました。

一方アドラーは、人間は個人の経験と性質といった要素から人間の性格は決まる、と考えています。

アドラー心理学・人生観を変える5つの考え方とは?

親指を立てるビジネスマン
アドラー心理学には「5つの基本前提」があります。
・自己決定性
・目的論
・全体論
・認知論
・対人関係論
アドラー心理学はこれら5つの理論を前提に話が進んでいきます。

それぞれの内容を見ていきましょう。

自己決定性|人生の主役は自分

自己決定性とは「人生の責任は自分の手に委ねられている」という考え方です。置かれた環境をポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかを決めるのは自分自身だと、アドラーは主張しています。

人は環境や過去の出来事のせいにして、未来を悲観してしまうことがあります。たとえばビジネスにおいて、下記のように考える人もいるでしょう。
  • 「自分が仕事で活躍できないのは、希望していた部署に配属してくれなかった会社が悪い」
  • 「同僚が優秀すぎるから、自分の頑張りや成果を上司に評価してもらえない」
しかしアドラーは、環境や過去の出来事のせいにして、自分の可能性を犠牲にすることを真っ向から否定しています。

職場の環境や本人の希望や適性がパフォーマンスに影響を与えることは認めつつ、将来的に成功するかどうかに過去は関係ないと主張しています。
  • 「希望していた部署には配属されなかったけど、自分の新しい仕事の可能性を見つける良いチャンスだ」
  • 「優秀な同僚の仕事の進め方や心構えを間近に観察できるから、自分が成長するチャンスだ」
このような感覚を持てるかどうかが幸福度につながるというのが「自己決定性」の理論です。

主体性を高める方法について、下記の記事で詳しく解説しています。
【関連記事:仕事における主体性とは?重要視される理由や高める方法を解説
【関連記事:プロアクティブ行動とは?意味や具体例、促進のコツと注意点

目的論|人の行動には目的がある

「人の行動には、かならず目的がある」という考え方が目的論です。人が何かしようと行動を決めるときは、必ず未来に向けての意思が働いているとアドラーは言います。

たとえば、ハラスメントを受けたことをきっかけに出社できなくなってしまった社員が発生したと仮定しましょう。フロイトの原因論では「行動の原因は過去にある」と考えるため「ハラスメントを受けたせいで出社できない」と捉えます。

一方、アドラーが提唱する目的論で目を向けるのは、行動の原因でなく「目的」です。出社できないことの目的は「会社で同僚や上司に会ったり仕事をしたりすることを避けること」であり突き詰めると、
  • 「プレッシャーのかかる言動を受けたくない」
  • 「安心できる環境から抜けて危険な場所へ行きたくない」
  • 「ハラスメントをしてきた相手に何らかの不利益が起こってほしい」
などと捉えられるでしょう。非常に厳しい見方ですが、つまりは本人の内部の問題というわけです。

別の例を挙げれば、仕事で失敗したときに「なぜこんなことになったんだ」と考えるのはフロイトが説く原因論。「どうすればより良い仕事ができるのだろう」と考え行動するのが、目的論に従ったアプローチです。

人間は目的に向かって生きているため、過去がどうあれ、目的次第で人生は変えられるとアドラーは主張しています。そのため、アドラー心理学は「未来志向の心理学」とも言われます。

全体論|心と身体はすべてつながったひとつのもの

「頭ではわかっているけどできない」
と、悩む人は少なくありません。
  • 頭ごなしに部下を指導するのは良くないけれどやめられない
  • 新しい企画書を毎日コツコツ作っていけば仕事に余裕が生まれるのに、できない
上記のように、頭では理解しながらも行動がともなっていない・真逆の行動をとってしまうという人もいるでしょう。このとき人は、下記のように分割して考える癖があります。
  • 心と体 
  • 理性と感情
  • 意識と無意識
しかしアドラーは人間の心と体を分けて考えるのは不可能であり、全体の立場から捉えるべきだと主張しています。これが「全体論」です。

全体論では、理性と感情、心と身体はすべてつながったひとつのものと捉えます。「わかっているけどやめられない」のは「やめられないのではなく、やめたくないだけ」なのです。

またアドラーは、人の心に矛盾はないとも言っています。そのため、上記の例のような矛盾した状況を自分で作り出すのでなく、自分の思考や思いと行動を一致させようと主張しているのです。

認知論|誰もが主観的に物事を見ている

「誰もが自分だけのメガネを通してものを見ている」という考え方を「認知論」と言います。客観的な事実を把握するのでなく、自分の受け取りたいように主観的に意味付けてしまうため、ときに間違った思い込みを起こすこともあります。

たとえば、仕事でミスをしたとき「自分なんていくら頑張ったところでうまくいかない」とあきらめるのは、間違った思い込みと言えるでしょう。

努力すればミスはなくなるかもしれませんし、失敗したからこそ、仕事への理解を深められるかもしれません。ミスしたからと言って「頑張ってもうまくいかない」と決めつけるのは早計でしょう。

誤った思い込みを防ぐには「共通感覚」を身につけることが大切です。共通感覚とは客観的に物事を見る力のことで、自分の物差しでなく、他の人の目で見たり考えたりすることが共通感覚です。

共通感覚はなんでも疑ってかかることで身につきます。

「いくら頑張ってもうまくいかないってほんと?」「どうしてそう断言できるのか?」などと疑うのです。誤った思い込みに気づいたら、建設的に物事を捉え直しましょう。

思いこみの心理に関しては下記の記事でくわしく解説しています。

【関連記事:ハロー効果とは?人事・採用における意味や事例・対策をわかりやすく解説
【関連記事:認知バイアスとは?身近にある認知バイアスの種類や対策について解説
【関連記事:根拠のない「見る眼」は危険、面接に潜むバイアスとは?具体例と対策を解説

また自分自身や社員の「誤った思い込み」を客観的に測定してコントロールする術を知りたい方は、ぜひミイダスが提供する「バイアス診断ゲーム」をご活用ください。バイアス診断ゲームを活用すると、認知バイアスの傾向や強さを客観的に分析できます。

認知バイアスとは、先入観や直感に頼って非合理な判断をしてしまう心理傾向のことです。認知バイアスの傾向を把握できれば、誤った思い込みに左右されそうなシーンにおいても、冷静に自分の意思決定を見つめ直せるようになるでしょう。

バイアス診断ゲームは、人材アセスメントツール「ミイダス」に登録している会社であれば、社員全員に、追加料金なしでバイアス診断ゲームを活用できます。気になった方は、下記からミイダスの概要をチェックしてみてください。

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対人関係論|すべての行動には必ず相手がいる

対人関係論とは「人間のあらゆる行動には相手役がいる」とする考え方です。人は特定の状況・相手・目的によって行動や感情を使い分けます。

たとえば、
  • 職場での顔
  • 家庭での顔
  • 地域社会の中での顔 など
それぞれの場で見せる顔は誰しも異なるものでしょう。職場では気難しい上司が、家庭では奥さんに頭が上がらないといったケースもあります。

アドラー心理学では、その人が他人とどう接しているかを見て相手を理解しようとします。
相手が何を考えているかわからないときは、その人が「どのような場面でどんな行動をする人物か」を観察することでその人自身が見えてくると主張しているのです。

アドラー心理学の価値観|最終的に目指すのは「共同体感覚」

家族の後ろ姿
アドラー心理学が最終的に目指すのは、共同体感覚を培うことです。共同体感覚とは、家族・地域・職場などの中で「自分はその一員なんだ」という感覚を持っている状態を指します。

共同体感覚が欠けていると、他者に関心が持てなくなるため、誰かに貢献しようとする気持ちを持てません。そのため集団から徐々に孤立していきます。自分のことしか考えられず、視野が狭くなってしまうのです。 

共同体感覚は、下記3つを身につけることが重要です。
  • ありのままの自分を受け入れる(自己受容)
  • 他者が自分を支えてくれている(他者信頼)
  • 自分は他者に貢献できている(他者貢献)
共同体感覚を持っている人は、関わる人を尊敬し、積極的に「貢献しよう」「協力しよう」という意識で動けます。アドラーは共同体感覚の重要性を以下のように強く訴えています。
どんな完全な人間でも、共同体感覚を養い育て、それを十分に働かせることなしには成長できないのである』 

アドラー心理学の技法

アドラー心理学には、特有の技法がいくつかあります。代表的なのは、下記2つの技法です。
  • 勇気づけ
  • 課題の分離
それぞれ解説します。

勇気づけ

勇気づけとは「困難を克服する活力を与えること」です。「褒める」「叱る」といった上下関係ではなく、対等な横の立場から感謝や気持ちを伝えるのがポイントです。

人を勇気づけるコミュニケーションには下記7つのポイントがあります。

【人を勇気づける7つのコミュニケーション】
・貢献や協力に注目する
・過程・個人の成長・できていることに注目する
・失敗しても受け入れる
・相手に決断や選択をゆだねる
・肯定的な表現で伝える
・わたし言葉+意見言葉を使う

引用:『自分もみんなも幸せにするアドラー心理学の教科書』田山夢人(著) (P83) Kindle 版
勇気づけには、相互に尊敬・信頼する関係が欠かせません。相手の存在や行動をまず受け入れ、相手がいま貢献していることに注目して声をかけましょう。

たとえば部下と顧客の商談が成立しなかったとしても、上司として部下に、下記のように声をかけるのです。

「夜遅くまで資料を作り込むとか、努力したことはちゃんんとみているよ」
「今回は残念だったけれど、商談を見ていても十分受注を獲得できるクオリティだったと思う。次はきっと商談成立するよ」など

対等な横の立場から気持ちを伝えることで、相手を勇気づけられるでしょう。

自分も相手も大切にしたコミュニケーションに関しては下記の記事でくわしく解説しています。

【関連記事:アサーションとは?|自己表現の3つのタイプとトレーニング方法を解説

課題の分離

「課題の分離」とは、自分でコントロールしようがない他者の課題には介入せず、自分ができることに注力する思考法です。

たとえば、言うことを聞かない部下に上司が不満を感じている場合をイメージして考えてみましょう。上司の課題は、部下に仕事のやり方を指導したり、どうしたら部下が成長できるかを考えたりすることです。一方、部下の課題は与えられた職務をまっとうすることです。

上司は部下の感情までコントロールできません。部下の感情は部下のものです。コントロールできるのは、上司自身の振る舞いにあると言えます。
  • 上手くいった方法を部下に伝える
  • 部下との接し方を工夫してみる
  • より部下が成果を出しやすい方法を考えて実践を指示してみる
このように、自分でできることを考えて実践することが大切です。部下が従うかどうか、成果がでるかどうかは自分のコントロールできる範囲を超えているため、あまり気にしません。

私たちは境界を越えて相手をコントロールしようとしてしまうから人間関係のトラブルを生じさせてしまうのです。自分のコントロール下にあるものと、コントロールできないものを立て分けることで、より健全な人間関係を築けるでしょう。

職場でアドラー心理学を取り入れるメリット

相談し合う男女会社員
アドラー心理学を取り入れるメリットは5点あります。
  • ポジティブになれる
  • モチベーションが向上する
  • 社員のスキルアップが期待できる
  • 課題解決能力が向上する
  • 自責思考が身につく
それぞれ見ていきましょう。

ポジティブになれる

アドラー心理学には気持ちをポジティブにする要素がたくさんあります。
  • どんなことにも目的があるとする「目的論」
  • どんなことも自分で決められる「自己決定性」
  • 困難を克服する「勇気づけ」 
  • 自分の課題と他人の課題に立て分ける「課題の分離」 など
環境や不幸な過去のせいにするのではなく、自分の責任で未来を切り開く心理学がアドラー心理学なのです。アドラー心理学を活用して困り事に対応すれば、ネガティブな出来事もポジティブに乗り越えていけるでしょう。

モチベーションが向上する

アドラー心理学を活用すれば、職場全体のモチベーションを高められるでしょう。「叱る」「褒める」といった上下の関係が透けて見えるコミュニケーションは、相手を操作する意図が見えてしまい、やる気を奪いかねません。

勇気づけでは、対等な横の関係から気持ちを伝えます。結果だけでなく過程を見たり、存在や行動を受け入れたり。上司が自分と同じ目線で話してくれていると感じられるだけで、励みになるものです。

勇気づけるコミュニケーションの結果、人は安心感を覚え、仕事へのモチベーションを維持できるのです。

また、互いに受け入れ合う関係が定着すれば、自発的に自分で自分を勇気づけられるようになります。自分自身で困難を乗り越える術を身につけられるため、職場全体のモチベーションが向上すると言えるのです。

社員のスキルアップが期待できる

アドラー心理学を職場で活用することで、社員のスキルアップを促す効果が期待できます。

「自分のことは自分で決める」という自己決定論の考え方が社内に浸透すれば、自分の仕事について他責思考ではなく自責思考になるため、より成果に責任を感じるようになるでしょう。

たとえば「上司に指示されたから対応した」ではなく「上司の指示をもとに自分の意見を伝えて、より仕事で成果を出す」といった考え方を社員が主体的にするようになるでしょう。

課題解決能力が向上する

アドラー心理学の技法である「課題の分離」は、社員の問題解決能力の向上に貢献します。

課題の分離では、自分ではコントロールできないことを調整しようとせず、自分で管理できることに集中するという考え方をします。この考え方を徹底することで、いま自分にできることへ労力を集中させて、課題解決の可能性を高めることが可能です。

たとえば「商談がなかなか成立しない」と悩んでいると仮定しましょう。この場合、商談が成立するかどうかは取引相手が判断することのため、自分では結果を決められません。そこで、商談が成立するよう「プレゼンの資料を作り込もう」「営業トークのロールプレイをしてみよう」と、自分なりにできる努力をするのです。

これによって社員のスキルアップはもちろん、結果的に商談を受注できる確率も上がります。このように、課題の分離を心がけて実践することで「商談を成立させる」という本来の課題を解決できるのです。

自責思考が身につく

アドラー心理学を職場に取り入れることで、社員の間に「自責思考」が根付く可能性が高まります。自責思考とは、物事がうまくいかなかった際に、外部要因や他人のせいにするのではなく、自分自身の行動や態度を振り返る思考方法です。

自責思考の基盤となっているのは、アドラーが提唱する基本前提の1つ「自己決定性」が影響します。仕事の結果は自分自身の選択と決定によるものだという認識が強まることで、「結果的に何が起こっても自己責任」と捉える習慣が身につくでしょう。

ただし自責思考を推奨しすぎると、社員が過度の自己批判や自己否定をしてしまう恐れがあります。会社としては、気軽に上司や同僚へ話しかけやすい雰囲気作りを行ったり、悩みができたときに相談しやすい仕組みを作ったりすることが大切です。

たとえば定期的に1on1を実施したり社内でイベントを行ったりすることで、風通しがよく安心して悩みを相談しやすい環境を作れます。安心して話しかけたり悩みを打ち明けたりしやすい状態のことを「心理的安全性が高い」とも表現します。詳しくは下記記事をご一読ください。

【関連記事:心理的安全性とは?意味や組織へのメリット・高め方を解説【人事必見】

職場でアドラー心理学を取り入れるデメリット

悩んでいるビジネスマン
アドラー心理学を職場に導入することには多くのメリットがありますが、同時に下記のようなデメリットも存在します。
  • バイアスが強く自分を変えられない場合がある
  • 部下の育成を放置する人が発生するリスクがある
  • 場合によっては相手のモチベーションを下げてしまうリスクがある
上位のデメリットについて理解し、適切に対処することが重要です。デメリットについて、詳しく見てみましょう。

バイアスが強く自分を変えられない場合がある

「現状仕事で大きなトラブルは発生していないのだから、わざわざアドラー心理学を取り入れる必要はないはずだ」
「仕事ができないのは他の人の問題であって、仕事がうまくいっている自分には関係ない」

このようなバイアス(思い込み)を強く持っており、なかなか自分の考えを変えられない人もいます。バイアスが強い人が多くなると、アドラー心理学の実践もしにくくなるでしょう。

たとえば現状維持バイアスが強いと「トラブルは発生していないのだから」と、現状の仕事の進め方や職場環境を変えることへの抵抗感が強まります。また生存者バイアスが強いと、「仕事がうまくいっていない人」という失敗例を直視せず、「今のやり方が一番良い」といった考え方に陥りやすくなってしまうものです。

【関連記事:バイアスとは?ビジネスでの意味や種類・企業に与える影響について解説【図解あり】

バイアスは誰でも持っているものですが、強すぎるバイアスは意思決定の質を低下させてしまいかねません。会社としてアドラー心理学を実践して成果を出すには、社員一人ひとりがバイアスと向き合っていくことが不可欠です。

とはいえ、バイアスの傾向を調べて改善するためのアドバイスを、社員1人ずつ行うのは大変な作業になってしまいます。そこでおすすめなのが、ツールを活用して客観的かつ効率的に自分のバイアスを把握することです。

たとえばミイダスが提供する「バイアス診断ゲーム」なら、社員全員のバイアスを調べて分析できるだけでなく、バイアスをどうコントロールすべきなのかアドバイスも受けられます。バイアス診断ゲームが気になった方は、下記からサービス詳細をご確認ください。

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部下の育成を放置する人が発生するリスクがある

アドラー心理学の考え方の1つである「自己決定性」や、技法の1つである「課題の分離」の影響から、部下の育成を放棄する人が発生するかもしれません。

自己決定性に従って「自分の人生は自分の責任」という言葉を誤って受け取ってしまい、「部下は自分の人生に大きくかかわらないから、自分が育成する必要はない」「それよりも自分の仕事の方が大切」といった考え方に陥る人が発生する可能性があります。

また「課題の分離」では、人は人、自分は自分として、コントロールできない他人のことを気にするよりも、自分の意思で決定・行動できる自分自身に意識を集中させよう、とも提唱しています。

ちなみにアドラー心理学では、自分に集中することの大切さを説いていますが「他人を放置してもいい」とは主張していません。もしアドラー心理学の考え方を誤って受け止めている人が発生した場合は、会社として指導しましょう。

場合によっては相手のモチベーションを下げてしまうリスクがある

アドラー心理学はビジネスにも活用できる考え方の1つですが、万能ではありません。場合によっては社員のモチベーションを下げてしまうこともあるでしょう。

「なぜ自分の内面まで変えるよう会社から指示されなければいけないのか分からない」
「自分はすでに仕事でパフォーマンスを発揮しているから、わざわざアドラー心理学を実践する必要はない」

このように、反発する人も一定数存在するはずです。また「自己決定性」はときに会社の指示と反する場合があります。「会社の指示には従わないといけないけれど、アドラー心理学の自己決定性に反する」と悩み、かえってストレスを与えてしまうこともあるでしょう。

アドラー心理学は万能ではありません。あくまで考え方の1つであること、他の考えやルールとバランスを取りながらアドラー心理学を実践していくことが大切です。

【お悩み別】職場でアドラー心理学を活かすには

会議中の会社員5名
ここからは、アドラー心理学を具体的にどうビジネスの現場で活かせるのか、具体例を挙げて紹介していきます。

個人でも実践できる例を挙げていますので、ぜひ読んでいただき実践で試してみてください。

【悩み①】上司の機嫌が悪い

「なぜか今日は上司がイライラしている」
「もしかして、私が何かしてしまったから怒っているのかな?」

このように考えてしまい、不安を感じている方もいるでしょう。しかし、上司のイライラの原因が本当にあなたなのかどうかは分かりません。

上司との関係に悩む方は「課題の分離」を意識しましょう。課題の分離とは、自分の課題と他者の課題を明確に分離して、他者の課題には踏み込まないようにすることです。

機嫌が悪いのは上司の課題であって、あなたの課題ではありません。自分の課題が何かと言えば、この場合「上司からの評価を気にしすぎる自分」が課題でしょう。つまり評価を気にしすぎてしまう自分を手放すことが必要です。

上司の顔色を伺うのは、相手の課題にあなたが踏み込むことになります。当然ですが、他人がイライラしている状況は自分の力でどうにかすることはできません。自分がコントロールできる課題か否かを判断して、コントロールできるものに対して注力するのです。

仮にあなたのミスで上司を怒らせたとしても、あなたにできるのはミスに対して真摯に対応するのみ。他人である上司のイライラそのものを解決することは、あなたにはできません。

上司との関係にお悩みの方は下記の記事も参考になるでしょう。あわせてお読みください。

【関連記事:マネジメントができない・下手な上司の特徴とは?弊害や対処法を紹介
【関連記事:部下を潰すクラッシャー上司とは?特徴や企業ができる対策を解説

【悩み②】頑張っているのに評価されない

「仕事を頑張っているのに会社が評価してくれない」
「なぜ自分は評価されず、他の人が評価されているのか分からず不満だ」

このような悩みを抱えている人もいるでしょう。しかし、自分に対する会社の評価を、自分自身で決めることはできません。「課題の分離」に即して見ると、頑張って成果を出すのは、自分の課題としてできることです。一方、上司が評価するかどうかは、上司の課題であり自分にはどうしようもない問題です。

「私はやるだけのことをやった。さあどう評価する?」といった気構えで、上司の評価を受け止めましょう。どうしても評価に納得できない場合は、転職するのも一手です。相手を変えられない前提で、自分がどう変わるのかに注力しましょう。

【悩み③】叱られると凹む

上司に叱られて落ち込む社員もいるでしょう。落ち込む気持ちを立て直す際に活用したいのが「目的論」です。目的論とは人の言動にはすべて目的があるという考え方のことです。

上司は何を目的に叱ったのかを考えましょう。

「やり方を変えないとお客様に迷惑をかけてしまうから」
「あなたの成長を促すために叱っている」
「ムシャクシャしており、ストレスを発散するため部下を怒鳴った」

さまざまな目的があるはずです。

叱った目的に納得できれば、上司のアドバイスを真摯に受け止め、自分の行動を変えれば良いでしょう。明らかに八つ当たりのようだったり、納得できなかったりする場合は、気にしなければ良いのです。

アドラー心理学を学べる本5選

ソファでくつろぐ猫と男性
アドラー心理学を楽しく学べる本を5冊ピックアップしました。ストーリー形式で展開するものや事例を多く取り入れた本を中心に取り上げています。
  • 『嫌われる勇気』
  • 『幸せになる勇気』
  • 『もしアドラーが上司だったら』
  • 『マンガでやさしくわかるアドラー心理学』
  • 『アドラー心理学を職場に取り入れてみた』
それぞれの要旨を簡単に紹介します。

岸見一郎・古賀史健(著)『嫌われる勇気』

『嫌われる勇気』はアドラー心理学をわかりやすく解説した大ベストセラーです。著者はアドラー心理学の第一人者・岸見一郎氏とビジネス書やノンフィクションの分野で数多くのベストセラーを手がけるライターの古賀史健氏。

翻訳による海外進出も果たし、いまや40以上の国・地域で読まれています。世界累計部数は960万部を突破(2022年時点)

本書はアドラー心理学を教える哲学者と自分に自信がない青年の対話形式でストーリーが展開されます。そのため、アドラー心理学に知見がない人でも読みやすい内容となっています。

人生を変えた本として『嫌われる勇気』を挙げる人は少なくありません。考え方を学んで人間関係が楽になったといった声も見られます。人間関係に悩む方におすすめの本です。

嫌われる勇気

岸見一郎・古賀史健(著)『幸せになる勇気』

『幸せになる勇気』は『嫌われる勇気』の続編です。前作「嫌われる勇気」でアドラーの教えを知り、新たな生き方を決意した青年。

その彼が3年ぶりに哲人の元に訪れるところから、ストーリーが始まります。アドラーの教えは机上の空論であり、現実はもっと複雑なのだと言い放つ青年に、哲人は穏やかに答えます。
  • アドラーの思想の根幹にある真の自立とは何か
  • 本当の愛とは何か
こういった問いの答えが見つかるでしょう。前作がアドラー心理学の全貌を語るものだったのに対し、今作はアドラー心理学の活用方法を具体的に解説する内容となっています。

幸せになる勇気

小倉広(著)『もしアドラーが上司だったら』

『もしアドラーが上司だったら』は、アドラー心理学の教えを仕事の場面でどう活かせるのかを学べる自己啓発書です。ストーリー形式で話が進むため、非常に読みやすい内容となっています。

主人公は30歳のサラリーマンのリョウ。仕事がうまくいかず毎日モヤモヤしていたある日、アメリカの大学院でアドラー心理学を学んだどらさんが、課長としてやってきました。
愛嬌と茶目っ気たっぷりのドラさんと主人公のやりとりが面白く、口コミにはあっという間に読み切ったといった声も。

著者の小倉広氏は、アドラー派の心理カウンセラーとして組織人事コンサルタントも担うと同時に、数多くの企業で講演、研修を行っています。

人と比べたり競争することに疲れている人や対人関係におけるモヤモヤを抱えた人におすすめです。

もしアドラーが上司だったら

岩井俊憲(著)『マンガでやさしくわかるアドラー心理学』

活字で学ぶのに抵抗がある方におすすめするのは『マンガでやさしくわかるアドラー心理学』著者はアドラー心理学カウンセリング指導者・岩井俊憲氏。

漫画と解説が交互に展開されるため、ストーリーを楽しみながらアドラー心理学を学べます。「理論的にわかったけど、実生活にどう生かしたらいいかわからない」という人におすすめです。

洋菓子チェーン店に勤務する由香里は、エリアマネージャーに抜擢されたものの思うようにならない日々を過ごす。各店舗の店長の離反や売上がうまく上がらないなど、悩みは尽きない。そんなとき出会ったのは、アドラーの幽霊。いかにして人間関係を改善して実績を上げるか、幽霊のアドラーに指南されながら成長していくストーリーです。

マンガでやさしくわかるアドラー心理学

小泉健一(著)『アドラー心理学を職場に取り入れてみた』

アドラー心理学マニアの著者が、職場にアドラー心理学を取り入れることで得られた変化をリアルに伝える作品です。

下記3つの観点・48のシチュエーションごとに、アドラー心理学を活かし乗り越える方法が書かれています。
  • 職場の人間関係
  • 仕事のやりがい
  • 部下へのマネジメント
「会社の雰囲気に馴染めない」「自分に自信がない」といった、職場でよくある悩みを一つ一つ解決していくため、より実務的にアドラー心理学を学べるでしょう。
職場の人間関係に悩む人にぴったりの本です。

アドラー心理学を職場に取り入れてみた

アドラー心理学|ポジティブな気持ちを取り戻す名言集

ドアを開く手
アドラーが残した言葉を5つ紹介します。落ち込んでも立ち上がる活力となる言葉ばかりです。
甘やかされた精神からは勇気など生まれない。しかしそんな臆病な人でも成功することがある。それは失敗を真正面から見つめたときだ。』

出典:こころを軽くする言葉―対人関係の不安を消す
『人生が困難なのではない。あなたが人生を困難にしているのだ。人生はきわめてシンプルである。』
出典:アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉
『お金を稼ぐとか、他者を助けるとか、そういった「行為」に着目するのではなく、今ここに「存在すること」そのものに価値がある』

出典:アドラー心理学を職場に取り入れてみた アドラー心理学を実践で学ぶ|位置611
『人は失敗を通じてしか学ばない』
『失敗は決して勇気をくじくものではなく、新しい課題として取り組むべきものである』

出典:アドラー心理学を職場に取り入れてみた アドラー心理学を実践で学ぶ|位置808
『やる気がなくなった』のではない。『やる気をなくす』という決断を自分でしただけだ。『変われない』のではない。『変わらない』という決断を自分でしているだけだ。

出典:アドラー心理学を職場に取り入れてみた アドラー心理学を実践で学ぶ|位置1062

アドラー心理学には人生を生きやすくするヒントが詰まっている

両手でイイネのビジネスマン
本記事ではアドラー心理学について解説しました。

職場においても家庭においても、生きづらさの根本には必ず対人関係があると言われています。アドラー心理学をベースに、距離感のとり方や気持ちの伝え方を学び実践すると、人間関係をより良好に保てるでしょう。

具体的には、上司は部下を尊重し、対等な立場で気持ちを伝えるのです。部下に共感し、受け入れようとする姿勢が部下を勇気づけ、仕事のモチベーションを引き出します。また、「課題の分離」を取り入れ、正しい判断基準を持つことも大切です。無用なストレスを減らす効果も期待できるでしょう。

アドラー心理学への理解を深めることが、自分の生き方や考え方を見直すきっかけになるかもしれません。教えにしたがって「今、ここ」に注力すれば、ポジティブに目の前の課題を乗り越えていけるようになるでしょう。

社員のモチベーション管理はミイダスの組織サーベイ

会社でアドラー心理学を取り入れたとしても、従業員のモチベーションや人間関係などの細かい変化には気付きにくいものです。

モチベーションの変化に気づき、適切なタイミングでフォローするには、ミイダス組織サーベイがおすすめです。ミイダスの組織サーベイは、毎月簡単なアンケートを実施するだけで、社員やチームのコンディションを可視化するサービスです。

部下とのコミュニケーションを密にして、変化を感じ取る努力ももちろん大切です。しかし抱える部下が多ければ多いほど、部下一人ひとりの変化を感じ取るのは難しいと言えます。


組織サーベイを活用して、頻度高く定点観測を行えば、一人ひとりの変化をリアルタイムに把握できるでしょう。離職の予兆にも気づきやすくなります。

アンケート回答の手軽さも組織サーベイの魅力の一つ。月1回5分程度で完了するため、部下に負担をかける心配もありません。

調査項目は下記6種類。欲しい調査項目を選択して情報収集できます。
  • やりがい
  • ミッション
  • 健康
  • 支援
  • 人間関係
  • 組織
必要な項目に絞れるため、組織改善に直結するデータを効率良く分析できるでしょう。
集めたデータは6つのカテゴリ別にレポート化されるため、フォローすべきポイントがわかります。

組織サーベイを活用する株式会社アールナインでは、組織サーベイの実施後に、結果を元にした面談を実施しているそうです。「数値の後ろ側」にある、社員の考えや状態を聞く機会を面談で作り、より制度の高いコミュニケーションを目指していると言います。株式会社アールナインでは、組織サーベイの導入後3年間、離職者がいないとのこと。

離職率の高さに悩む方はぜひ組織サーベイの導入をご検討ください。

ミイダスと他社の診断サービスを比較した結果は下表の通りです。
組織サーベイと他者診断の比較表
自社のニーズに合わせて、柔軟に頻度や診断範囲、内容を選択できるのが組織サーベイの魅力です。

組織サーベイの利用には、ミイダス有料契約へのお申し込みが必要です。有料契約期間中は追加料金なしでご利用いただけます。※追加料金なしで実施できる人数には制限があります。

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