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コンピテンシー

コンピテンシー評価とは?項目例や導入方法、メリット・デメリットなどを解説

コンピテンシー評価とは、仕事で優れた成果を上げる人に共通する行動特性をモデル化し、仕事の場における行動を評価する人事評価方法を指します。

納得感のある人事評価制度づくりのほか、人材の適材適所や採用活動、マネジメントにも活用することが可能です。従来用いられてきた人事評価とは異なる新しい手法として、導入する企業が増えています。

本記事では、コンピテンシー評価の概要と、コンピテンシー評価を導入するメリット・デメリット、具体的な導入方法などを詳しく解説します。記事後半では、よくある失敗を避ける方法や導入の負担を軽減させるおすすめツールも紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

また、適切な人事異動・配置にお悩みの方や、自社にフィットした人材を採用する方法を知りたい方は、以下の資料もぜひお役立てください。

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コンピテンシー評価とは?人事分野における役割

コンピテンシー評価のイメージ
コンピテンシー評価とは、どのような評価を指すのでしょうか。ここでは、コンピテンシー評価の概要や行動評価との違い、人事分野における基本的な役割を解説します。

コンピテンシー評価とは

コンピテンシー評価とは、コンピテンシーモデルと呼ばれる「理想の社員像」にもとづき、採用の候補者や各従業員の行動特性(人の行動・思考パターン)を評価することです。

たとえば、自社の管理職層のコンピテンシーモデルに「統率力」「問題解決力」が含まれるとしましょう。その場合、管理職層や管理職候補のコンピテンシー評価においては、これら2項目のスコアが高い人が高評価となります。

行動特性については、こちらの記事で詳しく解説しています。

【関連記事:行動特性とは?意味や活用メリット、コンピテンシー診断導入例を解説

ここで注意したいのが、企業や部署、職位によって最適なコンピテンシーモデルは異なるという点です。「すべての企業・業種・役職に通用する万能のコンピテンシーモデル」は存在しません。

よってコンピテンシー評価を導入する際は、部門やポジション、役割などでそれぞれコンピテンシーモデルを作成する必要があります。

なお、コンピテンシー評価はほかの評価方法と併用しやすく、今の評価手法にプラスする形でコンピテンシー評価を取り入れることも可能です。コンピテンシー評価と組み合わせるとよい、具体的な別の評価方法は後述します。

また、人材の評価方法(人事考課)や人事評価制度の構築方法についてはこちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

【関連記事:人事考課とは?意味と目的、評価基準や考課表の書き方をまとめて紹介
【関連記事:【事例あり】中小企業のための人事評価制度とは?作り方やシステムを紹介

コンピテンシー評価と行動評価は違う?能力評価との違いも解説

コンピテンシー評価と聞くと「行動評価とは違うのか?」という疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。結論として、コンピテンシー評価と行動評価は同じ意味を持つ「別名」です。

行動評価とは、自社で良い成果を出す人材の行動特性を評価する制度を指します。従来の評価方法である「職能資格制度(能力評価)」とは違い、成果に直結した行動特性に着目して評価する方法です。

従来は年功序列制度で、勤続年数や年齢などを元に評価される職能資格制度がメインでした。実際の成果や業績への影響は関係なく、評価者の主観が入りやすい評価のため、従業員の不満やモチベーション低下につながりやすいデメリットがありました。

その反面、行動評価は成果や業績を出す人材の行動が評価されるため、優秀な人材のモチベーション低下や離職などを防げる評価方法と言えます。

コンピテンシーとはどのような意味?概要を解説

コンピテンシーのデータ資料のイメージ
そもそも「コンピテンシー」とは、どのような意味なのでしょうか。コンピテンシー評価を理解するために、コンピテンシーについて解説します。

コンピテンシーの意味

コンピテンシーはおもに「仕事に対する姿勢や行動特性、物事に対する思考傾向」を意味しており、人材活用の分野では「業務上のパフォーマンスが高い人に通じる行動特性や思考性」を指します。

もともと「コンピテンシー(competency)」とは、英語では広く「能力」「適性」を指す用語です。

ひとくちに能力や適性といっても、
  • 学習によって習得した知識やスキル
  • 特定の職種や業務によって身につけたテクニックや経験則
  • 先天的に有している気質や才能
など、その種類はさまざまです。

コンピテンシーには、人材が先天的に有しているものもありますが、ライフイベントや仕事の経験、教育によって後天的な獲得も可能です。コンピテンシーについては、こちらの記事でより詳しく解説しています。

【関連記事:【簡単に解説】コンピテンシーとは?意味や使い方、活用事例を紹介
【関連記事:コンピテンシーとは?4つの活用シーンや分析ツールの導入事例を紹介

コンピテンシーのレベルは5段階ある

コンピテンシーのレベルには、5段階あります。

それぞれの段階と段階別の行動の傾向や特徴を以下にまとめました。段階的なレベル別の行動を把握することで、コンピテンシー評価を実施する際に役立ちます。
コンピテンシーレベル行動行動の特徴
レベル5パラダイム転換行動組織全体の視点で考えて、これまでにない新たな発想や独自の視点でアプローチして、現状を変化させる。リーダーシップをとり、メンバーや組織、事業全体に意義のある状況を与えられるレベル。
レベル4創造行動自らでアイデアを生み出し、状況や課題を解決したり、新たに業務を開発したりする。周囲に変化を与えられる状態。事業の成果に貢献できるレベル。
レベル3能動行動主体的に目標に向かって行動する。新しい状況や課題に対応する能力を持つ。創意工夫しながら能動的に処理したり、他のメンバーを指導したりすることが可能なレベル。
レベル2通常行動与えられたタスクをやり遂げられる状態。業務はミスなくこなす意識はあり、前向きな姿勢。しかし、自らの創意工夫はなく、与えられたこと以上をこなす意欲には欠けるレベル。
レベル1受動行動指示されたタスクをこなすが、自発的に行動を起こすことは少なく、受け身な姿勢。行動を促すには常に指示が必要なレベル。

コンピテンシーと似た概念の用語

人事評価においては、コンピテンシーと似た概念の用語が4つあります。
  • スキル
  • アビリティ
  • コア・コンピタンス
  • ケイパビリティ
それぞれの似た用語の意味を知ることで、コンピテンシーの意味とコンピテンシー評価を正しく理解できるでしょう。1つずつ解説します。

スキル

トレーニングによって後天的に習得できる、専門的かつ高度な技能や能力のこと。
(例)語学力、ITスキル、営業力、機器の操作テクニック など

アビリティ

能力、才能、技能を広く意味する用語だが、スキルほど熟練したレベルを意味しない場合が多い。先天的に生まれもった特徴も含むが、後天的に身につけることも可能。
(例)プレゼン力、調整力、事務処理能力 など

コア・コンピタンス

組織や企業が有する中核的な強み。社会に唯一無二の競争力を誇る技術や、他社には真似できない能力などが該当する。
(例)ブランド力、独自ネットワーク、特定分野における特殊技術 など

ケイパビリティ

組織が他社と差をつけるための、全体的な能力のこと。部門を横断して働く組織固有の強みや仕組みを指す。
(例)流通システム、効率化システム、組織としてのマーケティング力 など

「スキル」と「アビリティ」は個人の能力を示すのに対し、「コア・コンピタンス」と「ケイパビリティ」は企業や組織の能力を指します。

しかし、たとえ個人が高度な能力を有していても、必要なシーンで活用しようと判断できなければ成果は上げられません。行動特性や思考性を意味するコンピテンシーは、上記に挙げたような能力を発揮するための土台とも言えるでしょう。

コンピテンシー評価が必要とされる背景・理由

データ資料を見て、人事評価をするビジネスパーソン達
コンピテンシー評価が着目されている主な背景や理由を3つ解説します。
  • 人事評価制度が時代とともに変化している
  • 労働者の確保が難しく、人材の定着率や生産性の向上が重要視されている
  • 適正な人件費の設定が可能となり、無駄なコストを削減できる

人事評価制度が時代とともに変化している

スキルやアビリティという従来評価の対象とされてきた能力に加え、日本でコンピテンシーに注目が集まり始めたのは、1990年代のこと。バブルが崩壊し、人事評価制度を成果主義へ転換する傾向がみられた時期です。

それまでの日本では、年齢や勤続年数などで給与や役職が上がる「年功序列」の雇用慣習が根付いていました。年功序列と深く関連するのが「職能資格制度(能力評価)」です。

職能資格制度では、職務遂行能力を評価します。「勤続年数が長いほど高評価を得られやすい評価制度」とも言い換えられるでしょう。

しかし、バブル崩壊後の日本の厳しい経済状況のなか、職能資格制度を維持するのは難しくなりました。従業員の成果や実績に関わらず、雇用が長いほど人件費も増加し、経営に大きな負担を要するためです。

このような時代の背景から、従業員の仕事の成果や実績を評価する成果主義にシフトする企業が増えたのです。そのため、成果につながる行動や思考性を評価するコンピテンシー評価が注目されていると言えます。

労働者の確保が難しく、人材の定着率や生産性の向上が重要視されている

近年、日本は少子高齢化が急速に進み、労働者人口の減少傾向にあることから労働力の確保も困難になっています。よって、現在の日本企業は「人材の確保」と「生産性の向上」が持続可能な経営のために重要と言えるのです。

人材の確保には、自社で活躍する人材の見極めや採用はもちろん、入社後の定着率を上げる必要があります。

しかし、先述した年功序列制度での評価では、高い成果を上げる従業員からすれば「成果を出していない人材のほうが給与が高い」と、不満やモチベーションの低下が起きることがあります。すると、優秀な人材が離職する可能性があるのです。

そのため、客観的で公平な評価が可能なコンピテンシー評価が、人材の定着率の対策に有効と言えます。

なお、従業員の退職につながる主な要因や防止策については、以下の記事もご覧ください。

【関連記事:退職防止とは?要因と対策、企業事例もあわせて紹介

また、従業員のコンピテンシーに着目することで、個人や企業が有する能力をさらに引き出すための適材適所や活躍人材の採用、効果的なマネジメントなどが実現できます。結果として、個人と組織全体の生産性の向上につながり、人材の確保問題の対策にもなるのです。

日本の人手不足の詳しい現状や原因、対策は以下の記事で解説しています。

【関連記事:人手不足が深刻化する日本|現状と原因、企業が実施したい6つの対策

適正な人件費の設定が可能となり、無駄なコストを削減できる

コンピテンシー評価とは、「従業員の能力と業績に基づいて人件費を設定すること」とも言い換えられます。適正な人件費のため、無駄なコストを削減できます。

従来の年功序列制度は、従業員の成果や業績を報酬に反映させていません。そのため、能力と報酬がつりあわずに無駄なコストを発生させる原因と言えます。また、このような評価方法は従業員の不満やモチベーション低下につながり、生産性の低下や離職の可能性を高めるでしょう。

コンピテンシー評価を導入することで、従業員の成果や能力に基づいた公正な評価と報酬の設定が可能です。また、人事が各従業員のコンピテンシーを把握すれば、適材適所や効果的な育成が可能となり、組織全体の生産性向上につながります。

結果として、長期的に人件費の無駄を削減できるため、コンピテンシー評価が注目されているとも言えるでしょう。

人件費の削減方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。コスト削減が課題の方は、ぜひご確認ください。

【関連記事:採用コストの削減方法とは?コストが増えてしまう原因や減らすコツを紹介

コンピテンシー評価の活用シーンとは?【採用にも有利】

コンピテンシー評価は、採用、マネジメント、人材育成といったさまざまな面で活用できます。

たとえば、従来の採用選考においては、履歴書や職務経歴書、面接などで候補者の年齢、性別、学歴、職務経験、スキルを確認します。

しかしそれらの情報だけでは、採用後の人材の活躍をほとんど予測できないのです。
採用手法と入社後のパフォーマンスの相関関係を示すグラフ
上図は、採用方法と、採用後の人材の活躍との相関関係を調査した結果です。横軸の値が1.00で、採用後の活躍を完全に予測できることを意味します。

調査では、従来の採用選考で重視されてきた「年齢」「学歴」「自由面接での評価」「職務経験年数」と、入社後のパフォーマンスとの間に相関はほとんど見られませんでした。一方、「コンピテンシー評価」は、履歴書や自由面接で得る情報に比べ、2.2倍以上もその後の活躍予測に貢献しています。

従来の選考方法にコンピテンシー評価を加えることで、採用後も自社で活躍する人材を採用しやすくなるのです。

なお、コンピテンシーと同じく予測精度が高い項目に「構造化面接」があります。詳しくはこちらの記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

【関連記事:構造化面接は採用に有効?効果やメリット、質問例をまとめて解説

コンピテンシー評価を導入する5つのメリット

グッドサインをするビジネスマン
ここでは、コンピテンシー評価を企業が導入する具体的なメリットを5つにわけて紹介します。
1. 人事評価に透明性と公平性を与えられる
2. 従業員が自身の課題を明確化できる
3. マネジメントしやすくなる
4. 企業の方針・理想に沿った人事計画が立てられる
5. 業務の生産性が高まる

1. 人事評価に透明性と公平性を与えられる

コンピテンシー評価の導入は、人事評価に透明性と公平性を与える効果があります。

コンピテンシー評価は主に定性評価で、評価の軸となるコンピテンシーモデルはあらかじめ定義・公表されています。

評価内容や基準、目標が個人ごとに異なる目標管理制度では、上司の主観が入り込む余地が広く、また評価がブラックボックス化しやすいという問題がありました。

その点、どのような項目がプラスの評価となるか周知されているコンピテンシー評価なら、「どこが評価されたか」「何が足りないか」が明確にできます。たとえば、営業職の場合なら、コンピテンシー評価では「顧客との関係構築能力」や「交渉力」などを評価基準として設定できます。

すると従業員も評価内容に納得感を持ちやすくなり、離職リスクやモチベーション低下などを防ぐ一助となるでしょう。

2. 従業員が自身の課題を明確化できる

コンピテンシー評価では、従業員が自身の強みや取り組むべき課題を認識しやすくなります。

目指すべき人物像や評価基準が明確であり、自分に何が足りないか、また逆に何が優れているのかが把握できます。すると、従業員の自発的努力やモチベーションを引き出すことにつながるのです。

自らの課題と評価が結びついている実感があるため、働くことに安心感が生まれます。組織と従業員の間に信頼関係も築ければ、離職率低下も期待できるでしょう。

3. マネジメントしやすくなる

コンピテンシー評価の導入は、評価者にとってもマネジメントを容易にするメリットがあります。

評価者は主観に頼って評価するのではなく、基準に沿って判断・指導を行えるため、計画的にマネジメントを進められます。従業員の成長を具体的に把握し、適切なフィードバックが可能となるのです。

主観的な評価にもとづくマネジメントの場合、日頃の取り組みや面談での対話などを重ね、評価対象者の納得が得られる説明をする必要があります。納得感のない評価の場合、モチベーションの低下や不信感を招いてしまうからです。これらは評価者の工数を増大させ、精神的にも負荷がかかってしまいます。

対してコンピテンシー評価では、事前に定義された基準や指標をもとに判断を行うため、効果的なフィードバックや信頼を高めるためのコミュニケーションに時間を割けるのです。

結果的に、マネジメントがしやすい職場環境につながります。

4. 企業の方針・理想に沿った人事計画が立てられる

コンピテンシー評価は、企業の方針や理想に沿った人事計画を立てるためにも役立ちます。

コンピテンシー評価を行うことで、従業員の特性を把握し、強みを活かすポジションや部署への配置も可能です。また、コンピテンシー評価に用いるコンピテンシーモデルには、企業の目指すものを反映させられます。つまり、企業の抱える課題や経営方針と、人事計画とがリンクするのです。

たとえば、企業が事業において「顧客満足度の向上」を重視している場合、コンピテンシー評価では「顧客対応力」や「問題解決能力」を評価基準として設定すると、効果的な人事計画が立てられるでしょう。

すると従業員や候補者も企業の方針や人事計画を理解しやすくなるため、従業員エンゲージメント向上や採用後のミスマッチ回避にもつながります。

従業員の定着率に重要な従業員エンゲージメントの高め方や、採用ミスマッチを防ぐ具体的な方法は、以下の記事をぜひご確認ください。

【関連記事:エンゲージメント向上にはアセスメントツールが効果大!活用方法や事例を紹介
【関連記事:採用ミスマッチはなぜ起こる?原因と対策を解説

採用におけるコンピテンシー評価の活用に興味のある方は、こちらもご一読ください。

【関連記事:コンピテンシー面接とは?やり方や質問例も紹介

5. 業務の生産性が高まる

コンピテンシー評価は、業務の生産性を高める効果も期待できます。

コンピテンシー評価では、成果を出す従業員像が明確になるため、従業員は自身の課題や強みを明確に自覚することが可能です。すると、業務効率や品質の向上が見込まれます。

各従業員の特徴を考慮したマネジメントや適材適所の人材配置が可能となり、組織全体の生産性向上につながります。

たとえば、「コミュニケーション能力」の向上を図った結果、チーム内のコミュニケーションが円滑になり、業務やプロジェクト進行が向上する効果が期待できるでしょう。すると、人手不足だったとしても成果につながりやすくなり、事業の発展や業績アップが期待できます。

コンピテンシー評価の4つのデメリット

コンピテンシー評価のデメリットについて考える女性
コンピテンシー評価にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。

ここでは、主な4つのデメリットを紹介します。
1. コンピテンシー評価の導入プロセスの負担が大きい
2. 客観的なコンピテンシーモデルの作成が難しい
3. 運用中の改善に手間がかかる
4. 納得感のある評価制度にしなければ不信感を招く

1. コンピテンシー評価の導入プロセスの負担が大きい

コンピテンシー評価を導入するためには、おおまかに次の3段階を踏む必要があります。
・コンピテンシーを定義する
・コンピテンシーモデルを作成する
・運用フローを整える
特に、コンピテンシーモデルを作成する時点で多くの時間と工数が発生し、手間がかかります。本格的にコンピテンシー評価を導入するとなれば、企業全体で1つのモデルを作成するだけでは足りません。部門・部署や職種、職位によってコンピテンシーモデルが必要になります。

さらに評価項目の設定や評価方法の決定、評価者の教育など、運用させるためのシステムを構築しなければなりません。また、導入には専門的な知識を必要とし、組織全体の協力を得る必要もあるため、導入のハードルは高いと言えます。

これらの多くの工数に負担を感じ、導入を諦めるケースもあるでしょう。

このような導入ハードルを軽減させる方法として、導入プロセスを段階的に進めることや、外部の専門機関のサポートを得ること、コンピテンシーを把握するツールを活用する方法などが挙げられます。

2. 客観的なコンピテンシーモデルの作成が難しい

コンピテンシーモデルの作成には、公平性と透明性が求められます。しかし、コンピテンシーモデルに作成者の意図が入り込んでしまう可能性は避けられません。企業の方針にしたがって定義するとしても、人の手でモデル開発を行う以上、恣意性を完全に排除することは難しいためです。

また、評価基準も設定者の感覚に依存したり、明確性を欠いたりする場合もあります。

さらにコンピテンシーモデル自体に評価対象者が納得しづらい場合もあります。たとえば、評価基準が抽象的な場合、従業員からの理解が得られにくいと言えるでしょう。

各関係者から受け入れられるような客観性のあるコンピテンシーモデルの作成・導入は、非常にハードルが高いのです。納得感のないコンピテンシーモデルを無理に導入してしまうと、最悪の場合、従業員の離職につながるおそれもあります。

3. 運用中の改善に手間がかかる

コンピテンシー評価後は、定期的にコンピテンシーを改定したり、組織体制の変更に伴って新たなモデル開発を行ったりするなどの「改善」が必要です。特に変化が多い企業の場合は、改善の頻度も増えます。

漫然と同じコンピテンシーモデルを用いて評価し続けると、社内・部門内の多様性が損なわれるおそれがあるのです。生産性の低下を招くほか、従業員の変化に対応できずに活躍・成長の機会を損なってしまう可能性があります。

したがって、一度定義したコンピテンシーが現状に即しているのか定期的に確認し、必要に応じて改善する必要があるのです。しかし、これらの改善はモデルの再作成と同じくらいの手間がかかります。

4. 納得感のある評価制度にしなければ不信感を招く

コンピテンシー評価を導入する際は、社内の多くの従業員に協力や理解を得なければなりません。しかし、適切で納得感のある評価制度でなければ「評価基準が明確でない」「評価が公正でない」などの問題が発生し、従業員の不信感を生む可能性があります。

このような不信感は多くの従業員に影響し、社内全体のモチベーション低下にもつながり、組織にとって好ましくない事態を招くこともあるでしょう。

コンピテンシー評価の導入方法【8つの手順で解説】

コンピテンシー評価の導入ステップのイメージ
ここからは、コンピテンシー評価を導入する方法を解説します。プロセスはおおまかに次の8つにわけられます。
1. コンピテンシー評価を行う部門・ポジションを選定する
2. コンピテンシーモデルの型を決定する
3. コンピテンシー評価項目を設定する
4. ハイパフォーマーを分析する
5. コンピテンシーモデルを作成する
6. コンピテンシー評価シートを作成する
7. コンピテンシー評価を導入する
8. コンピテンシーモデルを評価・改善する

1. コンピテンシー評価を行う部門・ポジションを選定する

まず、コンピテンシー評価を行う対象と区分を定義します。この区分ごとにコンピテンシーモデルを開発すると考えてください。
(1)部門・部署ごとに分類する
(2)その中でさらに職位ごとに分ける
(3)職種や役割が混在する場合は、職種や役割ごとに分ける
上記のような流れで区分するとスムーズです。

たとえば、営業部門と製造部門、バックオフィスがある企業の場合、まず部門ごとに分けて部門ごとのマネージャーと一般社員で区別し、専門職については各コンピテンシーモデルを作成する、といった方法が考えられます。

この分類の時点で、マネジメント体制や組織体制に問題点が見つかる場合もあります。

機械的に現状の組織図どおりに分類するのではなく、経営計画や組織体制のPDCAと結びつけながら実施しましょう。

2. コンピテンシーモデルの型を決定する

次に、コンピテンシーモデルを作成する型を決定します。コンピテンシーモデルにはおもに次の3つがあります。
理想型
企業方針や理念、事業計画などに基づいた理想のモデル

実在型
社内で実際に活躍しているハイパフォーマーたちを元に作成するモデル

ハイブリッド型
理想型と実在型の両方の要素を持たせたモデル
現状に即したコンピテンシーモデルを作成したい場合は、実在型がおすすめです。「実際に活躍している人」という実績があるため、従業員からの納得感も得やすくなります。

一方、モデルにできる人材がいない場合や、企業理念や方針を取り入れたい場合は、理想型やハイブリッド型を選択するのがよいでしょう。ただし、理想型は企業に都合のよい人物像になってしまいやすいため、従業員目線での納得感を忘れないよう注意してください。

3. コンピテンシー評価項目を設定する

続いて、コンピテンシー評価項目を設定します。

このあとのコンピテンシーモデルを分析・作成する段階で、評価対象とする項目を具体的に決める必要があります。よって、最初のうちに着目するコンピテンシー項目をある程度絞り込んでおくとスムーズです。

とはいえ、コンピテンシーの項目には決まった形はありません。よって、「コンピテンシー・ディクショナリー」と呼ばれる項目集から自社に合わせて取捨選択したり、企業や組織で独自に設定したりします。

コンピテンシー・ディクショナリーとは?

コンピテンシー・ディクショナリーとは、コンピテンシーモデルを定義するベースとなるコンピテンシーとコンピテンシー項目を表したものです。1993年にライル・M・スペンサーとシグネ・M・スペンサーが提唱しました。

具体的には、以下の6つの領域のコンピテンシーと、各コンピテンシー項目を定義しています。コンピテンシーモデルを設定するときの基本的な考え方となり、コンピテンシー項目の設定に役立ちます。
コンピテンシーコンピテンシー項目
達成・行動達成思考
秩序・品質・正確性への関心
イニシアチブ
情報収集
援助・対人支援対人理解
顧客支援志向
インパクト・対人影響力インパクト・影響力
組織感覚
関係構築
管理領域他者育成
指導
チームワークと協力
チームリーダーシップ
知的領域分析的志向
概念的志向
技術的・専門職的・管理的専門性
個人の効果性自己管理
自信
柔軟性
組織コミットメント
出典:井村直恵. 日本におけるコンピテンシー : モデリングと運用. 京都マネジメント・レビュー. 2005, 巻 7, p. 97

コンピテンシー・ディクショナリーは、どのような業種・職種でも活用できるように項目を示しているのが特徴です。そのため、初めてコンピテンシー項目を設定する場合は、​これらの項目をヒントに考えるとよいでしょう。

コンピテンシー評価の項目例

また、参考までに「ミイダス」の「コンピテンシー診断」で使用しているコンピテンシー項目を例としてご紹介します。自社独自でのコンピテンシー項目や、その定義を設定する際の参考になるでしょう。

<コンピテンシー評価の項目例>
コンピテンシー項目定義
ヴァイタリティ・体力・気力に優れている
・強い競争心を持っている
・与えられた課題を必ず達成しようとする
人あたり・人へ良い印象を与え、過度の防衛心を相手に抱かせない
・思いやりと節度を持った態度を取れる
・他人の意見を尊重する
チームワーク・人と摩擦を起こさずに物事を処理できる
・チームにうまく溶け込める
創造的思考力・新しいコンセプトを創造することを好む
・困難にぶつかっても柔軟に問題をとらえる
・さまざまな角度で発想し、解決策を案出するのが得意
問題解決力・難しい問題、複雑な問題にぶつかるほど意欲が出る
・問題にぶつかったときに、解決に向けて合理的な推論を行う
状況適応力・自分の行動を客観的に見られる
・多様な仕事への適応力がある
プレッシャーへの耐力・感情的にならない
・プレッシャーやストレスが強い状況でも平静を保てる
・楽観的な人だといわれる
オーガナイズ能力・計画を立てるのが得意
・問題を予見する能力がある
・問題に対して緻密な対策を用意できる
統率力・リーダーとなって指揮を取れる
・自分からコミットしてメンバーのやる気を引き出せる
・メンバー一人ひとりをよく観察し、フォローできる
なお、各コンピテンシー項目は「その力を強く持っていることが良いとは言い切れない」点に注意が必要です。

たとえば、メンバーのやる気を引き出し、指示・指導を行うマネージャーのコンピテンシーには「統率力」が求められます。一方で、同じマネージャーでも広くメンバーの声を聴き、相談と協議を繰り返して意思決定できる「人当たり」や「チームワーク」が重視される場合もあるでしょう。

コンピテンシー評価を行う区分や企業方針によっても、各コンピテンシー項目に対する判断は異なります。

なお、ミイダスでは現在、上記のコンピテンシー項目の傾向を可視化する「コンピテンシー診断」を15名まで無料で提供しています。コンピテンシー評価を導入するにあたり、まずはコンピテンシー診断にて、従業員のコンピテンシーの傾向を確認することもおすすめです。以下より無料で試せます。

ミイダスの「コンピテンシー診断」では
人材の適性や資質を客観的に把握できます

まずは無料トライアルをお試しください。

アカウントを登録してコンピテンシー診断を利用する

※アカウントの登録及びご登録後のご利用は無料です。

4. ハイパフォーマーを分析する

実在型でコンピテンシーモデルを作成する場合は、1で決定したコンピテンシー評価の対象部署やポジションごとに「ハイパフォーマー」を分析します。ハイパフォーマーとは「自社で高い成果や業績を上げる人材」を指します。

ハイパフォーマーの主な特徴や分析方法は、以下の記事をご覧ください。

【関連記事:ハイパフォーマーとは?特徴や分析方法、離職を防ぐ方法を徹底解説

まず、それぞれの区分の中で「仕事ができる人」を選出しましょう。採用を見据えてコンピテンシー評価を行う場合は、採用したいポジションと近しい区分の先輩社員の中でパフォーマンスの高い人物を分析してください。

注意点は、企業の考える「仕事のできる人」とはどのような人物なのか、経営層や人事部門が合意形成を図り、言語化することです。

影響力のある人の捉える「仕事ができる人」が、実際に成果を上げているとは限りません。どのような基準でその人物を選出したのか、説明可能な状態にしておく必要があります。

その後、選出した人物にアンケートやインタビューを行い、仕事に対する考え方や行動パターンを分析します。3で決めたコンピテンシー評価項目を確認する形で質問を考えるとよいでしょう。実務における振る舞いや判断・意思決定の様子、チームメイトやお客様との対話などの場面を想定して聞き取りを行います。

5. コンピテンシーモデルを作成する

導き出したハイパフォーマーの行動特性や思考パターンにしたがって、コンピテンシーモデルを作成します。理想形でコンピテンシーモデルを作成する場合は、企業理念や方針をモデルに落とし込みましょう。

そして、各コンピテンシー項目について強弱をまとめます。

このときに、各項目について「ヴァイタリティが高い」「人当たりが良い」といった抽象的な表現に収めず、具体的に記述することが重要です。

たとえば、ハイパフォーマーたちに「統率力が高い」という共通点があったならば、「部署を横断するプロジェクトにおいて、中規模以上のチームをまとめ上げられる」といった形です。理想型の場合も、要求する行動レベルを具体化します。具体的な表現に落とし込んでおくと、コンピテンシー評価シートの作成に役立ちます。

コンピテンシーモデルの作成手順と注意点については、以下の記事もぜひご覧ください。

【関連記事:コンピテンシーモデルとは?5つのモデル化手順と注意点を徹底解説!

6. コンピテンシー評価シートを作成する

コンピテンシーモデルを実務に適用するため、コンピテンシー評価シートを作成します。評価シートの形式は自由ですが、以下の内容を盛り込みましょう。
<コンピテンシー評価シートの必須項目>
・評価するコンピテンシー項目
・各項目の具体的な定義(評価軸)
・各項目の評価基準
評価シートの一例として「ミイダス」のコンピテンシー診断結果の一部(パーソナリティの特徴)を掲載します。
ミイダスのコンピテンシー評価シート(一部抜粋)
ここから、より具体的にコンピテンシー評価シートの作成手順を解説します。

Step 1. 評価項目を選定する

最初に評価項目を選定します。コンピテンシーモデルをもとに、重要だと考えられるコンピテンシー項目を選出しましょう。

上で紹介した「ミイダス」の評価シートは、全求職者を対象とした診断の結果であるため、パーソナリティだけでも9項目を網羅する形となっています。

オリジナルで作成する場合は、自社に重要と思われるコンピテンシー項目のみで評価シートを作成するのがよいでしょう。

Step 2. 具体的な評価軸(行動例)を決める

次に、具体的な評価軸(行動例)を決めます。コンピテンシーモデルを作成する際に各項目と行動を紐付けて分析できている場合は、ここで活用するとよいでしょう。

たとえば次のような形です。
<項目:ヴァイタリティ>
活動的である
・行動することで生き生きとする
・常に忙しくしていたい
・やるべきことが沢山ある状態を楽しいと思う

競争を好む
・勝ちたいと思う気持ちが強い
・競争を楽しみ、負けることを嫌う
<項目:創造的思考力>
創造的である
・ほかにはない新しいアイデアを生み出せる
・新しいものを作り上げることを好む
・独創的な解決法を提案できる

概念性がある
・実務的な問題よりも理論的な問題に関心を持つ
・抽象的な概念について話し合うことを楽しめる

Step 3. コンピテンシー項目の評価基準(尺度)を設定する

各コンピテンシー項目について評価基準を設定します。

コンピテンシーモデルにもとづき「何を基準にそのコンピテンシー項目が強い・弱いと評価するか」を明確にします。評価基準は、次のようにおおむね3〜5段階で設定されることが多いでしょう。
<『創造的思考』の評価基準(例)>
レベル3:常に独創的なアイデアを創出できる。アイデアによってプロジェクトの方向性や課題解決に貢献できる
レベル2:課題解決に必要なアイデアを提案できる
レベル1:新しいアイデアの創出に苦労している
上の例の場合、基準を満たしているのはレベル2以上。レベル1は基準を満たしていないと評価されます。

評価軸にこれといった定型はありません。人事評価や人材配置、採用の場面で活用しやすいものを作成してください。

上記の「ミイダス」のコンピテンシー診断結果では、偏差値から10段階評価をしています。

なお、職種ごとにオリジナルで設定した場合の評価項目と評価基準の具体例は、後ほど解説します。

7. コンピテンシー評価を導入する

コンピテンシー評価シート作成後は、コンピテンシー評価の導入に移ります。主に下記のようなシーンで活用します。
  • マネジメント:人事評価や人材教育に用いる
  • 採用活動:コンピテンシーモデルに合致する人物の採用に活用する
  • 人材配置・人事異動:人材の選出の参考にする
初めて導入するとなると、シートの具体的な書き方を求められるはずです。以下では、コンピテンシー評価の書き方について簡単に紹介します。

コンピテンシー評価の書き方・自己評価のポイント【例文で解説】

コンピテンシー評価シートは、各項目の評価軸と評価基準に沿って書き込みます。その際、次のポイントを押さえましょう。また、コンピテンシー評価を評価対象者が自己評価するケースもありますが、書き方のポイントは同じです。
  • 客観的な視点で評価する
  • できるだけ具体的な数字を用いる
  • 具体的な結果と結果につながった行動を書く
  • 改善点を具体的に書く
客観的な視点で評価する
原則としてコンピテンシー評価は、評価者の主観や印象ではなく、客観的な事実や定めた評価基準や項目に基づいて実施することが求められます。特に自己評価の際は、主観的な要素が含まれるため、客観的な視点をより意識する必要があります。過小または過大評価にならないように、客観的な要素を含めて評価しましょう。

できるだけ具体的な数字を用いる
評価の際は具体的な数字を用いることで、客観的な視点での評価となり、信憑性を高められます。たとえば「新製品の売上を向上させた」よりも「新商品の販売において、目標の売上額を10%上回った」という書き方のほうが、具体的な成果を表せており、適切な評価が可能となります。

具体的な結果と結果につながった行動を書く
行動の結果だけでなく、それに至るまでの行動も正当な評価には重要です。たとえば、「新規顧客獲得のために競合他社の施策を分析し、独自の販売戦略を立案した結果、新規顧客数が20%増加した」という書き方は、結果につながった行動を明確に示しています。

改善点を具体的に書く
改善すべき点がある場合は、改善点も具体的に書くとよいでしょう。今後、より意義のあるコンピテンシー評価につながります。自己評価においては、行動に対するふり返りやその反省も評価に書くことで「自身の行動を客観的に分析し、改善ができる人材」という評価につながるでしょう。

コンピテンシー評価シートの記入例

コンピテンシー評価では、「なぜその評価なのか」「次のレベルに上がるには何が必要か」を具体的な結果や行動に基づいて記述することが重要です。具体的なコンピテンシー評価の記入例を、以下に紹介します。
▼評価者によるコンピテンシー評価シートの記入例

例1:問題解決力について
・評価内容:既存のお客様にヒアリング調査を実施し、調査結果から売上が伸び悩んでいた商品Aについてターゲット層の変更を提案。商品レイアウトを変更し、前年比130%の売上を達成した。
・改善点:今後はプレゼン力も強化し、他部署も巻き込んで課題解決を実現する力をつけてほしい。

例2:チームワークについて
・評価内容:Bプロジェクトではメンバーと意見が対立する場面もあったが、相違点について丁寧に相手へ説明し、プロジェクトの円滑な進行に貢献した。
・改善点:今後は他メンバーに対しても、意思決定へ参加できるよう積極的な働きかけをしてほしい。

8. コンピテンシーモデルを評価・改善する

コンピテンシー評価は導入して終わりではなく、運用した結果を確認・分析したうえで、より自社へ適した形へ改善が必要になります。以下では、改善のための分析方法や注意点、ポイントをまとめました。

【運用結果の確認・分析の例】
  • 人事評価の場合:部署や企業全体の生産性指標をもとに判断
  • 採用活動の場合:採用した人物の活躍状況や離職率・1年後定着率の変化をモニタリング
【改善時の注意点】
  • 「評価者の意見」などの主観的な内容や数値データとして処理できない情報は、コンピテンシーモデルの改善には使わないよう注意する。
※正確な実績が評価できないままコンピテンシーモデルを変更すると、評価自体が機能しなくなる可能性があるため。

【改善を見据えた運用のポイント・アイデア】
  • 導入初期からデータを収集し、評価者のフィードバックを得る仕組みを設けておく(随時最適化されたコンピテンシー評価を実現できるため)
  • コンピテンシー評価の導入経緯や項目の選定基準、コンピテンシーモデルの変遷などの記録を残しておき、事実確認ができるよう整理しておく

【職種別に紹介】コンピテンシー評価の項目・基準の具体例

コンピテンシー評価の項目をチェックするイメージ
コンピテンシー評価の際、評価項目や評価基準は「ポジションや職種別に設定する必要がある」ことをお伝えしました。とはいえ、自社に置き換えた場合、具体的にどのような評価項目や基準を設定すればよいのかイメージが湧かない方もいるのではないでしょうか。

そこで以下では、
  • 管理職
  • 営業職
を例として、コンピテンシー評価の評価項目とレベル別の行動を紹介します。自社のオリジナルの評価項目や基準を定めるときの参考にしてみてください。

管理職

管理職のコンピテンシー評価では、リーダーシップや戦略的思考などが重視されます。部下への適切な指示や指導に加え、事業計画の目標を達成するための施策の策定や部下への育成・マネジメントなどが求められるからです。

よって、管理職のコンピテンシー評価の際は、以下のような評価項目と評価基準を設定できます。
コンピテンシー評価項目例コンピテンシー評価基準例(5段階)
リーダーシップ
チームを統率し、目標達成に向けてメンバーを導く能力

具体例)
・各メンバーへの適切な指示出し
・困難な状況での重要な意思決定 など
・レベル1: 基本的なチーム管理ができる
・レベル2: チームメンバーの成長を促進し、個々の能力を引き出せる
・レベル3: チーム全体の方向性を示し、共通の目標に向かって導ける
・レベル4: 組織全体のリーダーシップを発揮し、他部署との連携を強化できる
・レベル5: 企業全体のビジョンを創造し、それを実現するための戦略的リーダーシップを発揮できる
戦略的思考
会社のビジョンに基づいて戦略を立て、それを実行する能力

具体例)
・新プロジェクトの戦略策定
・競合他社の分析 など
・レベル1: 部署やチーム内の短期的な戦略を立て、実行する
・レベル2: 中長期的な部門戦略を立て、チームに展開できる
・レベル3: 他部署と連携した組織全体の戦略を策定し、実行できる
・レベル4: 組織のビジネスモデルや市場環境を分析し、戦略的方向性を提案する
・レベル5: 企業全体の長期戦略を創造し、実現するための組織体制や文化を構築する

営業職

営業職の場合、顧客への理解と対応力や、具体的な成果を出すための推進力などが求められます。成約を獲得するには、顧客のニーズを把握した対応や提案力、目標達成のための行動が必要となるからです。

よって、営業職のコンピテンシー評価の際は、以下のような評価項目や評価基準が挙げられるでしょう。
コンピテンシー評価項目例コンピテンシー評価基準例(5段階)
顧客理解
顧客のニーズや課題を理解し、適切に対応する能力

具体例)
・顧客のニーズや課題の理解
・顧客の課題を解決する提案やアドバイス など
・レベル1: 顧客の基本情報とニーズを把握できる
・レベル2: 顧客の業界動向や競合状況を理解し、それに基づいた提案ができる
・レベル3: 顧客の長期的なビジネス戦略を理解し、かつ合致した知識や技術を提供できる
・レベル4: 顧客の未来のニーズを予測し、先進的な提案ができる
・レベル5: 顧客とビジネスパートナーとしての信頼関係を築ける
交渉力
顧客との交渉を行い、双方にとって良い結果を得る能力

具体例)
・価格交渉
・契約条件の調整 など
・レベル1: 基本的な商談が実施可能で、顧客との合意を形成できる
・レベル2: 複数のステークホルダーとの交渉を進め、利害を調整できる
・レベル3: 難しい交渉を成功させ、顧客との長期的な関係を構築できる
・レベル4: 企業間の戦略的な交渉をリードし、大型契約を獲得する
・レベル5: 交渉を通じて業界の標準を形成するなど、市場全体に影響を与えられる
以上、職種別のコンピテンシー評価項目と評価基準の具体例です。企業の経営方針やビジョンなどもふまえて、最適な項目や基準を設定してみてください。

コンピテンシー評価の注意点や失敗を避ける5つのポイント

コンピテンシー評価の導入を考えるビジネスマン
コンピテンシー評価は導入には時間と労力がかかり、また運用後も定期的な改善が必要です。現場にも少なからず負担がかかるため「苦労して導入したのに成果が出ない」ということでは、人事部門への不信感にもつながりかねません。

そこで、コンピテンシー評価の失敗を避けるため、次のポイントを押さえましょう。
1. 段階的に導入する
2. 「コンピテンシー」について周知する
3. ほかの評価方法も検討・併用する
4. 「完璧な理想像」ではなく、成果につながることを重要視する
5. 導入・運用負担を軽減するツールを活用する

1. 段階的に導入する

人事評価制度を大きく変更するとなると、混乱を招き、現場に負担が生じてしまいます。特に「コンピテンシー」という用語が浸透していない企業では、従業員の抵抗感が強くなるでしょう。

コンピテンシー評価に限らず、新しい仕組みは段階的に導入することが大切です。具体的には、以下の取り組みが挙げられます。
  • 「人事部門のみ」「新入社員のみ」のようにまずは部分的に導入する
  • 全社共通の理想型のコンピテンシーモデルを作成し、現行の人事評価に一部取り入れる
たとえば新人の人事評価の場合、業績が少ないため行動や意欲に対する評価の割合が高くなりがちです。このときにコンピテンシー評価を取り入れれば、どのような行動や態度が評価されるのか明確にできます。

また、企業理念や方針から作成した理想型のコンピテンシーモデルは、評価対象からの納得を得やすいモデルでもあります。現行の評価制度に加える形で取り入れれば、大きな混乱は生じにくいでしょう。

2. 「コンピテンシー」について周知する

コンピテンシー評価は、評価をする人・される人の双方がコンピテンシーについて十分に理解している必要があります。

「すべてのコンピテンシーを満たす人材が優秀である」
「コンピテンシーに沿って行動すればよい」

といった認識をされてしまうと、コンピテンシーを高めることが目的化してしまうリスクがあります。

重要なのはコンピテンシーを高めて「成果を上げること」です。コンピテンシーを高めても成果につながらなければ、コンピテンシー評価の意味はありません。

評価される側は、自分の業務において「なぜそのコンピテンシーが成果につながるのか」を理解する必要があります。また評価者にも、コンピテンシーを対象者の行動と結果に結びつけて評価できるだけの理解が求められます。

3. ほかの評価方法も検討・併用する

コンピテンシー評価は資質やスキルではなく、行動や物事に対する姿勢、取り組みの状況を評価します。定量評価よりも定性評価に重きがおかれ、成果だけでなくプロセスも評価されるのです。

よって、日本企業に広く普及している「目標を示してその到達を目指す」管理手法とは異なります。

また、あるべき姿をコンピテンシーモデルとして示して運用するため、企業が従業員の求めている理想像が評価に反映されます。たとえば360度評価は、個人の取り組みや強みからボトムアップで経営陣に気づきを与える効果がありますが、コンピテンシー評価にそのようなメリットは期待できません。

企業や組織によっては、
  • コンピテンシー評価以外の評価方法のほうが向いている
  • コンピテンシー評価だけでは不十分
といったケースもあるため、ほかの評価方法も検討することが重要です。

自社の目的をふまえて、必要ならば以下の評価方法とも組み合わせて実施するのもよいでしょう。
・MBO
・OKR
・360度評価

MBO

MBO(Management by Objectives)は、目標による管理と訳されます。「目標管理制度」と呼ばれることも多いでしょう。

企業全体の目標から部門・部署の目標へ、そして個人へと紐づけて目標を設定し、半期〜1年単位でその目標を達成したかどうかを評価する仕組みです。評価項目には定量的なものだけでなく、定性評価も含まれます。

【MBOの特徴】
  • 設定された目標は、評価者と評価対象者との間でのみ共有される
  • 目標設定には評価者のチェックが入るため、企業や部署の目標と個人目標の乖離は発生しない
  • 個人目標が社内で周知されることはない
  • 目標到達度が100%でなければ未達と判断される
<MBOのメリット>
・一人ひとりの目標や取り組む内容が明確である
・期日や取り組みによるマネジメントがしやすい

<MBOのデメリット>
・目標設定の仕方が個々人で異なる
・評価のブレが生じやすい
・自らの目標以外の事象に関心が薄くなりやすい
MBOでは個人目標や到達ステップが明確で、従業員が自主的に目標に向かって取り組みやすくなります。そのため、マネジメントもしやすいと言えます。PDCAサイクルと相性が良い点もメリットです。

【関連記事:PDCAサイクルとは?基本知識、古いと言われる理由、成功事例などを解説

MBOの最大のデメリットは、目標設定の難しさとブレです。目標設定する人の考え方や取り組む本人の状況により、目標達成や取り組みの難易度に差が開きやすくなります。定性評価も行うため、公平性や透明性の確保が難しい評価方法と言えるでしょう。また、自らの目標以外の事象に関心が薄くなることも懸念されます。

OKR

OKR(Objectives and Key Results)評価は、MBOと同じく目標による評価方法です。達成すべき目標と、それを測る主要な成果をもとに評価を行います。

MBOとの違いは以下の通りです。
  • 個人目標が全社に共有される
  • 評価のスパンが短い(毎月~四半期)
  • 定量評価である
  • 「達成か未達か」ではなく、達成度合いを評価する
<OKRのメリット>
・マネジメントの透明性が保てる
・評価のブレが少ない
・個人目標と企業目標との関連性が明確にできる

<OKRのデメリット>
・管理に手間がかかる
・自らの目標以外の事象に関心が薄くなりやすい
OKRでは定量評価のみが行われるため、目標設定や評価基準のブレが少なくなります。また個人目標と企業目標とが明確に紐づいており、従業員のモチベーションが保たれやすいこともメリットです。

ただ、短い期間ごとに評価を行うため、進捗管理がしやすい反面、管理工数がかさむことはデメリットと言えます。また、MBOと同様に、自分の目標を達成する以外のことへ関心が薄くなりやすい評価方法です。

360度評価

360度評価とは、上司だけでなく部下や同僚、場合によっては他部門のスタッフなど、複数の立場にある人が対象を評価する評価方法です。上司のみによる評価のデメリットを解消するために取り入れられます。
<360度評価のメリット>
・評価の公平性が確保できる
・上司や経営層が気づかなかった点を掘り起こせる
・プロセスや数値化されにくい部分を評価できる

<360度評価のデメリット>
・評価者の教育コストがかかる
・評価指標の設定が難しい
・部下からの評価を気にする人が現れる
360度評価では、上司以外の視点が加わって評価が行われます。そのため、上司自身のバイアスを解消したり、上司や経営陣が知らなかった取り組みや振る舞い、成果を可視化したりすることに役立ちます。定性評価を行う場合が多く、数値や成果に限定されない多様な評価につながるでしょう。

ただし、360度評価ではマネジメントや評価に慣れていない人が評価者になることがあるため、評価方法の教育が必要です。

また、多様な視点でフィードバックされるため、定性評価や評価内容の取り扱いが困難になる点もデメリットです。360度評価のみで人事評価を行う事例は少ないものの、給与や処遇、人材配置にどこまで反映させるのか、慎重に検討する必要があります。

さらに、部下からの悪い評価をおそれて、本来すべき指導や教育を実施できない上司も存在します。「嫌われるのではないか」など、個人的な感情に影響を及ぼす可能性も否定しきれません。

360度評価の概要や導入方法は、以下の記事で詳しく解説しています。

【関連記事:360度評価は意味がない?メリット・デメリット、導入方法を解説

4. 「完璧な理想像」ではなく、成果につながることを重要視する

コンピテンシー評価の失敗を防ぐには、事業の成果や目的を重視することが必要です。しかし、コンピテンシー評価の「完璧な理想像(コンピテンシーモデル)」を追求し過ぎると、成果に直結しない可能性があるのです。

たとえば「コミュニケーション」を向上させるために、管理職に「部下と毎日コミュニケーションを取る」といった基準を設けたとしても、成果にはつながらないでしょう。多忙な業務の中、実現自体が難しい可能性もあります。この場合「週に一度、部下と1on1ミーティングを実施」など、実現可能でかつ具体的な行動を示すと成果につながりやすくなります。

導入目的や具体的に上げたい成果を常に意識して、コンピテンシー評価を実施しましょう。

5. 導入・運用負担を軽減するツールを活用する

コンピテンシー評価は導入までの手間が多く、ゼロから人の手で行うには難易度が高いと言えます。また恣意性も排除しきれません。

そこで、コンピテンシー評価の導入や運用のハードルを下げるためにツールを活用することも一案です。たとえば、クラウドサービスを利用して、評価データの一元管理を行うなどがあります。また、人材の行動特性に着目し、資質や特徴をすぐにデータ化して可視化できる「ミイダス」の「コンピテンシー診断」の活用も、負担の軽減になるでしょう。

なお、こちらの記事では、コンピテンシー診断について詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。

【関連記事:コンピテンシー診断とは?ツールの使用方法や導入事例も解説

コンピテンシー評価の人材分析には、ミイダスの「コンピテンシー診断」が便利!

ミイダスのサービス画面
ミイダス」の「コンピテンシー診断」は、コンピテンシー評価の導入に必要な従業員の分析には特に便利です。脳科学や機械学習の専門家と開発したテストを用いて、計41項目の行動特性を可視化できます。

そのため、職種やポジションごとにコンピテンシー評価の項目や基準を設定する際の負担軽減につながるでしょう。

ここでは、ミイダスがコンピテンシー評価の導入に役立つ理由や、スムーズな人事業務に効果的な機能を紹介します。
  • ハイパフォーマーの抽出・分析が可能なため、評価項目や評価軸の設定がしやすい
  • 認知バイアスの傾向も把握できるため、精度高く人材を分析できる
  • 自社にフィットする人材へ直接アプローチができるため、効果的に採用できる
  • 従業員のコンディションを把握し、生産性の低下や離職を防止できる

ハイパフォーマーの抽出・分析が可能で、評価項目や評価軸の設定がしやすい

ミイダスのコンピテンシー診断の画像
ミイダスの「コンピテンシー診断」は、コンピテンシーモデルを作成する際の人材分析の負担を大幅に削減できます。コンピテンシー診断では、以下の5つの分野の傾向や特徴の可視化が可能です。
  • マネジメント資質
  • パーソナリティの特徴
  • 職務適性
  • 上下関係適性
  • ストレス要因
上記の分野で、全41項目のコンピテンシー(行動特性)を10段階の度合いで表します。

そのため、人材ごとのコンピテンシーの傾向がデータで一目瞭然です。また、分析したい部署やチームにコンピテンシー診断を実施すれば、ハイパフォーマーを自動抽出できる機能も搭載されています。

このように、客観的なコンピテンシー診断の結果をベースにコンピテンシー評価の各項目や評価基準を作れるため、効果的なコンピテンシー評価が実現できるでしょう。言語化しにくいパーソナリティについてもデータで管理できるため、人事評価の基準や採用要件にも簡単に取り入れられます。

コンピテンシー診断について詳しく知りたい方は、以下の動画もぜひご覧ください。

認知バイアスの傾向も把握できるため、精度高く人材を分析できる

ミイダスでは「認知バイアス」の傾向を診断できる「バイアス診断ゲーム」も提供しています。認知バイアスとは、意思決定する際の考え方の傾向(思考のクセ)です。

バイアス診断ゲームでは「フレーミング効果」「現状維持」など、全22項目の認知バイアスの傾向を数値で可視化できます。コンピテンシー診断と組み合わせることで、より精度の高い人材の見極めが実現できるでしょう。

なお、認知バイアスについてより詳しく動画で学べる「バイアス診断ゲーム研修講座」も提供していますので、「診断結果を上手く活用できないのでは?」という心配も無用です。実際に講座内で配信している動画を1本無料で配信中ですので、以下よりぜひご確認ください。

自社にフィットする人材へ直接アプローチができるため、効果的に採用できる

ミイダスは採用から人材配置、マネジメント、育成に至るまで活用できるツールです。採用時はミイダス独自の「活躍要因診断」を用いて、1,733種類の項目から自社にフィットする優秀な人材を洗い出せます。

さらにミイダスのデータベースから自社にフィットする人材を検索し、スカウトすることも可能です。「活躍要因診断」ではコンピテンシー診断の結果をもとに活躍する人材の特性を明らかにして、コンピテンシーモデルを作成してマッチングに役立てられます。

【活用事例:都会ではたらくエンジニア職から、自然豊かな島のマルチワーカーに 「コンピテンシー診断」で、地方の人材不足や定着課題に貢献

従業員のコンディションを把握し、生産性の低下や離職を防止できる

ミイダスの組織サーベイの説明画像
人材が自社で長期的に活躍して力を発揮してもらうためには、上司やリーダーの適切な育成やフォローも重要です。

ミイダスは従業員の現在のモチベーションやストレスの状態をグラフで可視化する「組織サーベイ」も提供しています。1回5分程度のアンケートを従業員に回答してもらう仕組みのため、忙しい業務の中でも簡単に実施できるでしょう。

採用後の小さな変化も記録し、定期的に確認することで、タイミングを逃さずに必要なフォローや問題解決ができます。

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以下の動画で概要を解説していますので、ぜひご覧ください。

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