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裁量労働制とは?生産性向上のカギを握る柔軟な働き方と運用の注意点

裁量労働制とは、働く時間や仕事の進め方を従業員自身に大きく委ね、柔軟な働き方を実現するための制度です。とくに、創造性やひらめきを重視する研究職やデザイナーなどに適用され、効率的な業務遂行が期待されます。

企業にとっては生産性の向上や人件費の適正管理というメリットがある一方で、長時間労働の防止や従業員の健康管理など、運用面での課題も指摘されています。

とくに2024年の法改正では、健康・福祉確保措置が強化されるなど、より慎重な制度運用が求められることとなりました。

この記事では、裁量労働制の仕組みや時間外手当の扱い方などについて解説します。導入する際の注意点なども解説していますので、ぜひ最後までご一読ください。

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裁量労働制とは?

微笑む女性
裁量労働制とは、業務の性質上、遂行手段や時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務に適用される制度です。みなし労働時間制の一種で、あらかじめ定めた時間分、働いたとみなす点に特徴があります。

たとえば、企業と労働者間でみなし労働時間を8時間と定めた場合、実際には1日1時間しか働かなくても、同じ8時間分の賃金を払います。労働者は出退勤時間を自由に決められ、1日の労働時間も自身の裁量で管理できるのです。

研究職やデザイナーなど、ひらめきを必要とする職種では、業務が一般的な時間管理になじまない場合があります。これらの職種では成果が重視され、労働時間の長さはあまり問われないためです。

そこで、労働時間の管理を労働者の裁量に任せ、効率的な業務遂行を可能にするため、裁量労働制を採用するのです。

裁量労働制には、以下の2種類があります。
  • 専門業務型裁量労働制
  • 企画業務型裁量労働制
それぞれの特徴について、詳しく解説します。

専門業務型裁量労働制の概要

専門業務型裁量労働制は、厚生労働省令の告示に定められた以下20種類の業務を対象とし、労使協定であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度です。クリエイティブな仕事や研究開発など、労働時間の管理になじまない業務を主な対象としています。

【専門業務型裁量労働制の対象となる業務】
1. 新商品、新技術の研究開発
2. 情報処理システムの分析または設計
3. 記事の取材・編集
4. デザインの考案
5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6. コピーライターの業務
7. システムコンサルタントの業務
8. インテリアコーディネーターの業務
9. ゲーム用ソフトウェアの創作
10. 証券アナリストの業務
11. 金融商品の開発
12. 大学における教授研究の業務
13. M&Aアドバイザーの業務
14. 公認会計士の業務
15. 弁護士の業務
16. 建築士の業務
17. 不動産鑑定士の業務
18. 弁理士の業務
19. 税理士の業務
20. 中小企業診断士の業務

参考:専門業務型裁量労働制について|厚生労働省・都道府県・労働基準監督署
以下の記事ではデザイナーの採用や士業の業務内容について詳しく解説しています。

【関連記事:デザイナー採用は難しい?成功させるポイントやおすすめのサービスを紹介
【関連記事:士業とは?8士業・10士業の一覧や業務内容・年収を解説

企画業務型裁量労働制の概要

企画業務型裁量労働制は、事業運営上の重要な意思決定が行われる部門で、企画、立案、調査、分析などの業務に従事する労働者を対象とした制度です。事務職系の職種、いわゆるホワイトカラー業務すべてを対象とするわけではありません。

以下4つの要件すべてを満たす業務が対象となります。
1. 業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること
2. 企画、立案、調査及び分析の業務であること
3. 業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
4. 業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること

参考:企画業務型裁量労働制について|厚生労働省・都道府県・労働基準監督署
さらに、上記すべての業務にあてはまり、以下、いずれかの事業場であることも条件です。
1. 本社・本店である事業場
2. 事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
3. 本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場

参考:「企画業務型裁量労働制」|厚生労働省労働基準局監督課

裁量労働制における時間外手当(残業代)の扱いとは?

手のひらの硬貨
裁量労働制における残業代の扱いは、通常の労働時間制度とは異なる特徴を持っています。以下2つのケースでは、会社は労働者に残業代を支払う必要があります。
  • ケース1:みなし労働時間が法定労働時間を超える場合
  • ケース2:深夜労働や休日出勤をした場合

ケース1:みなし労働時間が法定労働時間を超える場合

あらかじめ定められた「みなし労働時間」が「法定労働時間(1日8時間、週40時間)」を超える場合、会社は超過分について割増賃金を支払わなければなりません。たとえば、みなし労働時間が10時間の場合、法定労働時間の8時間を超える2時間分が残業代の対象となります。

ただし、みなし労働時間が8時間に設定されている場合、実際の労働時間が10時間であっても、労働者は残業代を請求できません。

ケース2:深夜労働や休日出勤をした場合

深夜(午後10時から午前5時まで)や法定休日に出勤した場合、その時間に対して割増賃金が発生します。深夜労働には25%以上、休日出勤には35%以上の割増賃金率が適用されます。

裁量労働制の残業代計算方法は次の通りです。
残業代 = 基礎賃金 × 割増率 × 残業時間
たとえば、月給40万円で1か月の所定労働時間を160時間の場合、時間あたりの基礎賃金は2,500円です。みなし労働時間が9時間、実労働時間が10時間だった場合、1時間分の残業代は以下のように計算されます。
残業代 = 2,500円 × 1.25 × 1 = 3,125円
参考:割増賃金の基礎となる賃金は?|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

裁量労働制を導入するメリット

メリット
企業が裁量労働制を導入するメリットは以下3つが挙げられます。
  • 生産性が向上する
  • 人件費を管理しやすくなる
  • 優秀な人材の確保・定着につながる
それぞれ詳しく見ていきましょう。

生産性が向上する

日本生産性本部の調査結果によると、裁量労働制を導入した企業の約48.7%が業務の生産性向上を報告しています。また「効率よく仕事を進めるように従業員の意識が変わった」とする回答は61.5%にも上り、裁量労働制の導入が従業員のモチベーション向上にも寄与している様子が伺えます。

2024年からの裁量労働制の改正では、健康・福祉確保措置がさらに強化されました。長時間労働の抑制と健康管理により重点が置かれ、この改正により、従業員の健康維持と生産性向上の両立がより図りやすくなると期待されています。

参考:裁量労働制ならびに労働時間管理に関する調査|日本生産性本部
参考:第2章 人生100年時代の人材と働き方 第3節|内閣府

以下の記事では生産性を高める施策について詳しく解説しています。

【関連記事:生産性向上とは?必要とされる背景や具体的な取り組み施策を解説!

人件費を管理しやすくなる

裁量労働制では、あらかじめ設定した「みなし労働時間」に基づいて給与が支払われるため、労働時間の厳密な管理や残業代の計算は基本的に不要です。

みなし労働時間が法定労働時間を超えたり、休日出勤等が発生したりしない限り、残業手当も発生しません。そのため、人件費の大幅な変動が起こりにくく、人件費の予測と管理がしやすいメリットがあります。

優秀な人材の確保・定着につながる

働き方の自由度が高い職場環境は、求職者にとって魅力的なポイントとなります。自分の生活スタイルに合わせて柔軟に勤務時間を調整できるため、育児や介護などの家庭の事情を抱える求職者にも強く訴求できるでしょう。

とくにZ世代をはじめとする若い世代では、自分のライフスタイルに合った働き方を重視する傾向が強まっています。若者マーケティング機関「SHIBUYA109 lab.(シブヤイチマルキュウラボ)」の調査によると、企業選びにおいて「ワークライフバランスを大事にしたい」と答えた人は全体の87.9%に上りました。

このように、プライベートと仕事の両立ができるかどうかが、求職者が企業を選ぶ際の重要な基準となっているのです。裁量労働制を導入することで、優秀な人材確保と定着につながると考えられます。

参考:24卒・25卒に聞く!Z世代のキャリア観に関する意識調査|PR TIMES

優秀な人材を採用するために、転職希望者の応募を待つだけでなく、企業側から気になる人材に直接アプローチしてみるのも良いでしょう。ミイダスのスカウト機能を使えば、自社に合う特徴を持つ人材に直接アプローチできます。

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裁量労働制を採用するデメリット

デメリット
一方、裁量労働制を導入する企業側のデメリットとしては以下2点が挙げられます。
  • 長時間労働が常態化しやすい
  • 導入には手間がかかる
それぞれ見ていきましょう。

長時間労働が常態化しやすい

労働時間の管理を労働者の裁量に委ねているため、出退勤時刻が自由であり、実際の労働時間を正確に把握することが困難です。その結果、従業員の労働状況を適切に管理できず、長時間労働が見過ごされやすくなってしまいます。

また裁量労働制では、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めた「みなし労働時間」に基づいて給与が支払われるため、労働者が長時間働いても残業代が発生しません。このことから、制度が「定額働かせ放題」として悪用されるリスクがあり、企業の評判を損なう可能性もあるのです。

実際に厚生労働省の調査結果からは、裁量労働制が適用される従業員の労働時間が、通常の労働時間制の従業員と比較して、平均的に長くなる傾向が明らかになっています。

【1日の平均労働時間数】
非適用労働者8時間39分
適用労働者9時間
(参考:裁量労働制実態調査 結果の概要|厚生労働省

導入・運用の手間がかかる

裁量労働制の導入には、労使協定の締結や労使委員会の設置など、複数の法定手続きが必要です。これらの対応には相当の時間と人的リソースを要するため、とくに中小企業にとって大きな負担となることがあります。

さらに、2024年4月からは新たな要件として、制度適用時に従業員本人の同意を得ることが義務づけられました。この追加要件により、導入・運用手続きはより複雑化し、企業の管理コストの増加は避けられない状況となっています。

参考:裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です|厚生労働省

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裁量労働制の導入・運用における3つの注意点

注意
裁量労働制の導入・運用にあたっての注意点は以下3つあります。
  • 適切な労働時間管理が不可欠
  • 健康・福祉確保措置の強化に努める
  • 特定の条件下では36協定が適用される
それぞれ解説します。

適切な労働時間管理が不可欠

裁量労働制では長時間労働のリスクが高まりやすいため、従業員の実労働時間を正確に把握し、適切に管理することが重要です。とくに2024年4月の法改正により、より厳格な労働時間管理が求められるようになりました。

具体的な管理方法として、以下の対策が効果的です。
  • 勤怠管理システムの活用による出退勤時刻の正確な記録
  • 休日出勤や深夜労働の事前承認制度の導入
これらの施策により、従業員の労働時間を適切に把握し、健康障害の防止につなげられます。

健康福祉確保措置の強化に努める

裁量労働制を適用する労働者全員に対して、適切な健康管理と福祉措置の実施が法律で義務づけられています。とくに近年の法改正により、より手厚い健康確保措置が求められることとなりました。

具体的な健康・福祉確保措置の例は下記の通りです。

【労働時間管理に関する措置】
  • 勤務間インターバルの確保
  • 深夜業の回数制限
  • 代償休日や特別休暇の付与
【健康管理に関する措置】
  • 健康診断の実施
  • 年次有給休暇の取得促進
  • 健康問題についての相談窓口の設置
【専門的なケア】
  • 健康状態に応じた配置転換
  • 産業医による保健指導など
参考:裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です|厚生労働省

以下の記事ではストレスチェック制度について詳しく解説しています。

【関連記事:ストレスチェック制度とは?実施の流れや職場改善につなげる活用法を解説

特定の条件下では36協定が適用される

裁量労働制においても、特定の条件下では「36協定」(時間外・休日労働に関する労使協定)の締結が必要です。みなし労働時間制を採用していても、以下のいずれかに該当する場合は、36協定の締結が法律で義務づけられています。

【36協定が必要となるケース】
  • みなし労働時間が法定労働時間を超える場合
  • 深夜労働が発生する場合
  • 休日労働が発生する場合
なお、上記の条件に該当しない場合でも、裁量労働制は労働基準法に基づく適切な管理が求められます。とくに以下の点に注意が必要です。
  • 実労働時間の正確な記録
  • みなし労働時間との乖離状況の把握
  • 必要に応じた労働時間の是正措置
36協定については以下の記事で詳しく解説しています。

【関連記事:36協定とは?メリット・デメリットや書式について解説

裁量労働制の導入方法

裁量労働制の導入方法は、専門業務型と企画業務型の2種類に分かれ、それぞれ異なる手続きが必要です。2024年4月からの改正により、従業員本人の同意が必要となるなどの新たな要件が追加されました。

【専門業務型裁量労働制の導入手順】

  • 1. 労使協定の締結
    対象業務やみなし労働時間、健康・福祉確保措置などを定めた労使協定を締結します。
  • 2. 就業規則の変更
    裁量労働制に関する内容を就業規則に記載し、労働者に周知します。
  • 3. 労働基準監督署への届出
    労使協定と改正した就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出ます。
  • 4. 雇用契約書の更新
    対象労働者から同意を得るため、雇用契約書を更新します。この際、制度の概要や同意しなかった場合の取り扱いについても説明します。
参考:専門業務型裁量労働制について

【企画業務型裁量労働制の導入手順】

  • 1. 労使委員会の設置
    労使委員会を設置し、その運営規程を作成します。
  • 2. 決議による承認
    労使委員会で対象業務やみなし労働時間などについて5分の4以上の多数決で決議します。
  • 3. 就業規則の変更
    裁量労働制に関する内容を就業規則に記載し、労働者に周知します。
  • 4. 労働基準監督署へ届出
    専門業務型と同様に、就業規則を改正し、労働基準監督署に届け出ます。
  • 5. 対象労働者からの同意取得
    対象となる従業員から個別に同意を得ます。この際、制度概要や賃金・評価制度についても説明します。
参考:企画業務型裁量労働制について

法改正により、専門業務型では対象者の同意が必須となり、同意しなかった場合の不利益扱いの禁止や同意撤回手続きの整備が必要です。企画業務型では、運営規程への賃金・評価制度の記載や6カ月ごとの定期報告が義務化されました。

また、両タイプとも健康・福祉確保措置が強化され、勤務間インターバルや深夜勤務の回数制限などが求められるようになりました。裁量労働制の導入にあたっては、自社の業務内容に適したタイプを選択し、法改正で追加された要件を漏れなく満たすことが肝要です。

従業員の理解と同意を得ながら、適切な労務管理を行っていくことが重要といえるでしょう。

適切な制度運用と人材配置で、裁量労働制の効果を最大化

手のひらピカリ
裁量労働制は従業員の自律性を重視することで、生産性向上が期待できる制度といえます。しかし、その効果を最大限に引き出すには、適切な労務管理と健康確保措置の実施が不可欠です。

2024年の法改正により、従業員本人の同意取得や健康確保措置の強化など、より慎重な制度運用が求められるようになりました。制度を効果的に機能させるには、対象となる業務や従業員の適性を見極める工夫が重要です。

従業員一人ひとりの能力や特性に合った職場環境を整備することで、はじめて裁量労働制の本来の目的である生産性の向上につながるでしょう。

また、定期的な制度の見直しや従業員との対話を通じて、より効果的な運用方法を模索していく姿勢も大切です。

適材適所の人材配置で生産性を向上させよう

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しかし、個々の従業員の適性を正確に見極めることは簡単ではありません。豊富な経験やスキルを持つ人材であっても、実際の職場で期待通りの活躍ができるとは限らないためです。

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