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戦略人事とは?意味や成功への5つのポイントを解説 

戦略人事とは「企業の経営戦略を実現するために、人材マネジメントの視点から経営に深く関わる人事のあり方」を示す用語です。「攻めの人事」や「人事組織戦略」と呼ばれることもあります。

本記事では、戦略人事の意味、日本企業での実施状況、戦略人事を成功させるポイント、日本企業における戦略人事の成功事例などについて詳しく解説します。

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戦略人事とは、これからの人事のあるべき姿

戦略人事に取り組む人事のイメージ
戦略人事とは「企業の理念や経営戦略、経営目標に基づいて、人材マネジメントを行うこと」を意味するビジネス用語です。

元は経営学の分野の1つである「戦略的人的資源管理論(Strategic Human Resource Management)」から生まれた概念とされています。1990年代、ミシガン大学のウルリッチ教授が提唱したのをきっかけに欧米企業で実践が進み、その後、日本企業からも注目されるようになりました。

戦略人事は、言い換えれば「企業が経営戦略を実現するために、人事部門も戦略的に人的資源をマネジメントすべきだ」とする考え方です。

優れた経営戦略が生まれても、実行できる人材がいなければ、その戦略は実現できません。企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化する時代において、経営戦略と連動した人事施策を立案・推進できる人事部門の存在は、企業にとって大きな強みとなります。

まさに「戦略人事」は、これからの人事のあるべき姿を表している用語と言えるでしょう。

とはいえ、「戦略人事」が示すのは、あくまで概念・考え方です。そこに決まった定義や方法論は存在せず、各企業で戦略人事に対する見解が異なる点に留意してください。

「戦略人事」と「従来の人事」との違い

戦略人事の理解を深めるため、従来の人事との違いを整理しましょう。
役割職務内容
従来の人事業務が滞りなく行われるよう支援する裏方人事制度設計、採用、勤労管理、人材育成
戦略人事経営戦略を実現するためのビジネスパートナー従来の職務、人事領域での戦略立案と実行
従来の人事は、管理やオペレーション業務が主でした。企業にとって不可欠な存在ではあるものの、あくまで保守・管理が主な役割だったと言えるでしょう。

対して戦略人事では、従来の業務にプラスして、より積極的な経営への参画および人事施策の実施が求められます。たとえば、メンター制度や従業員のリスキリング支援といった競合他社にはない人材教育制度の導入は、戦略人事の施策の1つといえるでしょう。

メンター制度やリスキリングについては、こちらの記事をご覧ください。

メンター制度の導入で得られる効果やデメリット、制度を成功させるポイントを解説
リスキリングとは?必要とされる背景、導入方法、日本企業の課題を解説

「戦略人事」と「人事戦略」との違い

戦略人事と間違えやすい用語として「人事戦略」があります。似た言葉に見えますが、その意味合いには次のような違いがあります。
  • 戦略人事:経営戦略を実現するための戦略立案や人材マネジメントを行うこと
  • 人事戦略:人事業務やオペレーション業務で発生している課題を解決し、業務効率を向上させる取り組み
大きな違いは、「企業の経営戦略や事業戦略にコミットしているかどうか」です。

たとえば、日本の労働者人口の減少といった経営課題に対して、人事の面から解決策を考えるのが戦略人事です。一方、新入社員の離職防止策を考えるといった場合は、人事戦略になります。

戦略人事は、人事戦略よりもより経営に近い、上流の工程と言えるでしょう。

戦略人事に求められる4つの機能

積み重なった積み木
戦略人事の推進にあたり、人事部門には従来とは異なる組織編成・モデルが求められます。その形は時代や企業のビジネスモデルによって変化するものですが、いまのグローバル企業においては、おおむね次の4つの機能を有するモデルが定着しています。
  • HRBP(HRビジネスパートナー):経営陣や事業部リーダーを人事面からサポートする機能
  • CoE(センター・オブ・エクセレンス):専門知識を持つプロとして処遇制度の設計や採用計画、人材育成プログラムの設計などを行う機能
  • OPs(オペレーションズ):給与支払いや労務管理などの実務を効率的に行う機能
  • OD&TD(組織開発&人材開発):企業理念の浸透や人材・組織開発を推進する機能
戦略人事を牽引するのがHRBPであり、ほかの3つの機能はHRBPを支援する位置づけになります。

なお、戦略人事を行うにあたって、上記4つの機能が必ずしも個別のチームに分かれている必要はありません。HRBPがOD&TDも担ったり、CoEとOPsを統合したりと、企業に最適な形で運用されます。

では、各機能について詳しく見てみましょう。

HRBP(HRビジネスパートナー)

HRBPは、経営陣や事業部門のリーダーのビジネスパートナーとして、人事面から戦略や目標達成をサポートする役割を担います。

たとえば事業部リーダーから人材のリクエストがあった際に、リクエスト内容に対して助言を行ったり、そのポジションを担う人材に必要な能力や処遇を整理したりするのがHRBPの仕事です。

ここで注意したいのが、HRBPはただトップダウンの指示を遂行するものではないという点です。トップの考えを理解したうえで、現場のニーズや実態と照らし合わせ、経営目標や事業目標の達成に貢献できる戦略を立案・実践しなければなりません。

HRBPには、人事領域の専門知識はもちろん、事業に関する深い理解が求められます。

CoE(センター・オブ・エクセレンス)

CoEとは、専門知識やノウハウ、スキルを集約した中核部署・拠点を指す言葉です。人事領域においては、採用のプロや処遇制度設計のプロなど、各分野に特化したプロが集まる組織・チームを意味します。

具体的には、HRBPやOD&TDから「このような人材を育成したい」といったリクエストに対して、育成制度や研修プログラムを設計するなどの役割を担います。専門家としてHRBPを支えるコンサルタントのイメージです。

OPs(オペレーションズ)

OPsは、給与計算、労務管理、入退社の手続きといったオペレーション業務を担います。日本企業の人事部門が裏方として遂行してきた部分を集約した機能とも言えるでしょう。

OPsに求められるのは、業務の正確さと効率性です。したがって、昔からのやり方をルーチンで続けるのではなく、ITツールの導入やアウトソーシング化の推進といった業務改善も行います。

CoEと一緒に多忙なHRBPを支える、いわば実務の専門部隊と言えるでしょう。

OD&TD(組織開発&人材開発)

OD&TDは、全社の組織開発(OD)と人材開発(TD)を推進する機能です。企業理念の浸透や必要な人材の育成、人材を最大限活用できる組織開発など、「組織のありたい姿」を実現する役割を担います。

なおOD&TDに関しては、独立した部隊を配置せず、ほかの3つの機能のいずれかがOD&TDを兼務しているケースも珍しくありません。

組織作りについてはこちらの記事もご覧ください。
組織力強化は会社の成長に必要不可欠|5つの強化法と成功事例を解説

日本企業における戦略人事の現状

戦略人事が広まって以降、多くの日本企業が戦略人事の重要性を認識しています。しかしながら、戦略人事の導入や実践となると、あまり進んでいるとは言えません。

『日本の人事部』がのべ3,091社を対象として2021年3月に行った調査から、日本企業における戦略人事の現状を見てみましょう。

日本企業の戦略人事の定義

前述したとおり「戦略人事」は1つの概念であり、その定義は企業によって異なります。では、日本企業はどのように戦略人事を定義づけているのでしょうか。

『日本の人事部 人事白書2021』によると、次のように定義されています。
<業績が市況より良い企業>
・将来を見据え、競合より優位に立ち続けるために積極的に攻める人事
・業界の中でオンリーワンを目指せる人材育成・教育体制
・企業価値向上に向けた人材の活性化

<業績が市況と同程度の企業>
・事業継続に向けた人事(採用・育成・処遇)
・従業員のスキルや経験を可視化し、人材開発・育成に役立てること
・人材育成を踏まえた上での人材採用・配置

<業績が市況よりも悪い企業>
・適材適所
・人材の若返りと組織の活性化
・キーパーソン、将来のリーダーの育成

『日本の人事部 人事白書2021』14ページより引用)
業績が同程度〜良い企業は、経営戦略や将来の経営課題を見据えた定義をしているように見受けられます。

一方、業績が市況より悪い企業は、直面している課題への対策として戦略人事を定義している傾向があります。

戦略人事が機能している企業はわずか30%

「人事部門が戦略人事として機能しているか」に関する回答
「人事部門が戦略人事として機能しているか」に関する回答(出典:『日本の人事部 人事白書2021』
では、実際に企業のなかで戦略人事は機能しているのでしょうか?

『日本の人事部 人事白書2021』によると、戦略人事の重要性を認識している企業は90%を超える一方で、実際に戦略人事が機能していると応えた企業はたった30%(上図)でした。

業績別にみると、市況よりも業績が良い企業で約36%、市況よりも悪い企業で29.6%と大きな違いはありません。

業績とは関係なく、日本企業のなかに戦略人事の実践を阻む要因があると推察できます。

日本企業で戦略人事の実践が難しい理由

日本企業において戦略人事の実践が難しいとされる背景には、大きく次の3つが考えられます。
  • 戦略人事に対する経営陣の認識が不足している
  • 人事部門のリソースが不足している
  • 人事部門に経営へ関わる権限がない
戦略人事では、人事部門が経営に深く関わります。よって、経営陣が戦略人事の重要性を理解し、人事部門および人材に投資するといった思想を持っていなければ、戦略人事の実践は困難です。

また、人事担当者の業務過多によるリソース不足も戦略人事の阻害要因です。戦略人事と従来の人事との違いの部分で説明した通り、戦略人事には労務管理などの日常のオペレーション業務も含まれます。

よって、人事担当者が日々の業務に追われている状態では、戦略人事まで手が回せません。結果として「重要性は理解していても、実践できていない状態」となってしまうのです。

さらに、そもそも人事部門に経営に関われるような権限がないケースもあります。事業部門が強かったり、企業方針としてほかの領域への投資を優先していたりする企業は、「人事は裏方であるべき」といった考えが強くなります。人事が戦略を提案できる環境ではないため、戦略人事の実践は難しいでしょう。

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企業が戦略人事に取り組むメリット

企業が戦略人事に取り組むメリットは、主に次の2つが挙げられます。
  • 人的資源を最大限活用できる
  • 外部からの人材調達がスピーディーにできる
戦略人事が実践できると、経営戦略に沿った育成・配置・評価が可能になり、自社の人材を最大限活かすことにつながります。

また採用においても、求める人材の要件が明確になるため、求人募集から内定までがスピーディーに動けます。優秀な人材の早期確保にもつながるでしょう。

少子高齢化が深刻化するなかで、この2つのメリットは企業にとって大きなアドバンテージになります。

戦略人事を成功させる5つのポイント

戦略人事を実践する人事のイメージ
戦略人事を成功させるうえで重要なポイントを5つ紹介します。
  • 経営戦略や企業方針に一貫性を持たせる
  • 経営戦略、事業戦略を理解する
  • 各ポジションで活躍できる人材のタイプを把握する
  • 施策の目標値を設定する
  • 従業員からの反発を想定しておく

経営戦略や企業方針に一貫性を持たせる

戦略人事は年単位の中長期的な取り組みになります。したがって、戦略人事に取り組むうえでの大元となる経営戦略や事業モデル、企業方針に一貫性があるかどうかは、非常に重要なポイントです。

たとえば「将来に向けてグローバルに活躍できるリーダー人材を育成しよう」となったとします。その場合、採用、研修プログラム、処遇や評価制度といった人事領域の改革はもちろん、全社的にも該当する人材を後押しする風土の醸成が必要になるでしょう。

しかし、ここで翌年になって「やっぱり競合他社と差別化できる技術者を育てよう」と方針が変更になったらどうでしょうか?改革が無駄になるだけでなく、従業員のなかにも不信感が生まれてしまうはずです。

経営戦略と企業方針が矛盾していたり、目指すべき方向がひんぱんに変更されたりといった状況では、戦略人事の成功は難しいでしょう。

経営戦略、事業戦略を理解する

戦略人事において、人事部門は人事の知識だけでなく、自社の経営戦略や事業戦略をしっかりと理解しておく必要があります。

人事部門は本来、経営において戦力と環境を担う部署です。

企業がどれだけ優れた経営戦略や戦術を立てたとしても、戦力がなければ、実行には移せません。たとえ戦力があったとしても、実力を発揮できる環境が整わなければ戦力は活かしきれません。

人事部門として戦力と環境を適切に管理するには、自社の経営戦略や事業戦略を把握し、自社が将来直面するであろう課題を予測できるレベルまで理解を深めておく必要があります。

企業方針にベクトルを合わせることで、はじめて人事領域においてその課題に備えられるのです。

人事領域での目標を決める

戦略人事における最終的なゴールは、経営戦略の実現および経営目標の達成です。ただ、戦略人事を実践するにあたっては、経営目標に沿った人事領域の目標設定も重要です。

具体的には、経営戦略を実現するための「理想の組織」を目標とするなどが考えられます。理想の組織を描くことで、将来どのポジションに人材が必要になるか、過剰になるかが予測でき、採用や育成といった具体的な施策が立案できます。

戦略人事で取り組むべき課題の優先順位や、人事面で経営に貢献できる範囲も明確になるでしょう。

各ポジションで活躍できる人材のタイプを把握する

自社に戦力となる人材がいたとしても、適切な人材配置ができなければ経営戦略にコミットした組織作りはできません。適材適所の人材配置は、戦略人事の成功に欠かせないポイントです。

ここで重要になるのが、各ポジションで求められる能力の把握です。

ただし、スキルや経験といった目に見える能力だけリストアップするのでは足りません。仕事における思考傾向や行動特性といった、そのポジションを担う人に求められる内面的な特徴まで把握する必要があります。

たとえば部署を横断する大規模なプロジェクトでリーダーを担う人には、人を引っ張れる統率力や、反発にあっても萎縮せずに意見を戦わせられるタフさなどが求められるでしょう。

このような仕事の成果につながる人材の内面的な特徴は「コンピテンシー」と呼ばれ、採用や人材育成、人材配置といった人事領域のさまざまなシーンで活用されています。

コンピテンシーおよびコンピテンシーの診断方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。ぜひご一読ください。

【コンピテンシーとは?4つの活用シーンや分析ツールの導入事例を紹介】
【コンピテンシー診断とは?導入事例や使用方法も解説】

従業員からの反発を想定して動く

戦略人事では経営戦略の実現を目指してさまざまな人事施策を立案・実施しますが、人事領域の改革は、各部署や従業員一人ひとりにさまざまな影響を及ぼします。

従業員の多くは、職場環境の変化や仕事のやり方の変更は好みません。戦略人事の実践にあたっては、従業員からの反発を想定して動くべきでしょう。とくに「年功序列が残っている」「経営者と従業員の間に溝がある」ような企業では、従業員からの抵抗が大きくなる可能性もあります。

また、戦略人事の導入によって人事担当者が業務過多にならないかも注意すべきです。人事部が非協力的では、戦略人事は進められません。

各部署へ策定した戦略の重要性やメリットを説明したり、人事担当者のオペレーション業務を軽減するツールを導入したりといった対策が求められます。

戦略人事で成功した日本企業の事例

ここからは、日本企業における戦略人事の成功事例について紹介します。

楽天

楽天は、2017年より大規模な人事改革プロジェクト「Back to Basics Project」をスタート。本来の人事目標である「勝てる人材、勝てるチームを作る」に立ち返ることを掲げ、「採用・育成・定着」という3つの領域において、既存のプログラムや制度を一新しました。

「採用」では、採用プロセスの改善や採用ブランディングの強化などを行い、オンライン・オフラインの両方で求職者との相互理解の促進に取り組んでいます。

また「育成」では、さまざまな研修や学習プログラムを開発したほか、マネージャーと部下の1on1ミーティングも導入。勤続年数ではなく能力・成果に対し正当な評価を受けられる給与体系とあわせて、従業員の継続的な成長を促しています。

さらに、優秀な人材の「定着」を図るため、時差勤務制度や在宅勤務制度など働きやすい職場の構築にも努めています。

楽天の“「グローバル イノベーション カンパニー」であり続ける”というビジョンを、人事面から支えるプロジェクトと言えるでしょう。

参考:Rakuten「楽天グループ人事統括部の挑戦『Back to Basics Project』

日産自動車

日産自動車は、1999年にルノーと提携して以来、さまざまな人事制度改革を実施してきました。2015年からスタートした独自のタレントマネジメントプログラム「JBLP(Japan Business Leadership Development Program)」もその1つです。

JBLPは、グローバルにビジネスを牽引できるリーダーを、日本人のなかから育成しようとするプログラムです。ビジネスリーダーを志す人材に対して、部門横断型のキャリアパスを用意し、多様な経験を通して次世代の育成を図っています。

JBLP参加者のなかには、すでに役員や主要なポストに就いて活躍している人も出ており、全社的にも部門を超えて人材を育てる風土が醸成されつつあるとのこと。

日産のJBLPは、特定の国や地域で人材育成を強化した戦略人事の成功事例と言えるでしょう。

参考:リクルートマネジメントソリューションズ「日産自動車は「グローバルで活躍できる日本人リーダー」を育てている〈オーナーセッション〉

戦略人事に取り組むなら「ミイダス」

ミイダスの管理画面
戦略人事では、経営戦略や経営目標にコミットする形で人材マネジメントを展開していきます。従来の人事の業務範囲を超えた抜本的な人事制度改革になるケースもあり、経営陣はもちろん、取り組む人事部門にも「経営に関わっていく」という意識の刷新が求められます。

しかし、多くの企業にとって、戦略人事にリソースを割くのは容易ではありません。人事が担っている日々の業務は多岐に渡るため、戦略人事の重要性は把握しつつも、なかなか着手できない企業も少なくないでしょう。

そこで検討していただきたいのが、採用や人材配置にかかる負担を軽減するアセスメントツールの活用です。

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