「優秀な人材がなぜ定着しないのか」と悩んでいる企業は少なくありません。本記事では、人材が離れる根本原因を分析し、定着率を高めるための具体的なリテンション施策を網羅的に解説します。
目次
なぜ自社から人材が離れていくのか?定着しない原因

まずは、なぜ人材が自社に定着しないのか、その根本的な原因を探りましょう。ここでは、多くの企業が抱える代表的な離職原因を4つのカテゴリーにわけて詳しく解説します。
報酬・待遇の問題
報酬や待遇に不満があると、従業員はより良い条件を求めて転職を検討し始めます。
| 問題の側面 | 具体的な不満の例 |
|---|---|
| 給与・賞与 | 業界水準や同業他社と比較して給与が低い。成果を上げても昇給や賞与にほとんど反映されない。 |
| 評価制度 | 評価基準が曖昧で、上司の主観に左右される。評価に対する十分なフィードバックがない。 |
| 福利厚生 | 住宅手当や家族手当、退職金制度などが整備されていない。制度はあっても利用しにくい雰囲気がある。 |
労働環境の問題
心身の健康を保ち長期的に働き続けるためには、健全な労働環境と心理的安全性が不可欠です。
| 問題の側面 | 具体的な不満の例 |
|---|---|
| 労働時間・休暇 | 恒常的な残業や休日出勤が当たり前になっている。有給休暇を申請しづらい、または取得理由を聞かれる。 |
| 働き方の柔軟性 | リモートワークやフレックスタイム、時短勤務といった多様な働き方に対応できていない。 |
| 職場環境 | パワハラやセクハラが黙認されている。コミュニケーションが一方的で、意見を言える雰囲気ではない。 |
キャリア・成長の問題
意欲の高い優秀な人材ほど、自身の成長を強く望んでいます。
| 問題の側面 | 具体的な不満の例 |
|---|---|
| 成長機会 | 研修やOJTが不十分。挑戦的な仕事を任せてもらえず、毎日同じ業務の繰り返しで成長実感がない。 |
| キャリアパス | 社内での昇進・昇格の道筋が不透明。ロールモデルとなる上司や先輩がいない。 |
| 仕事のやりがい | 裁量権が少なく、自分の意見やアイデアが業務に反映されない。仕事の目的や社会への貢献性を感じられない。 |
人間関係・組織文化の問題
離職対策に避けて通れないのが、職場の人間関係です。
| 問題の側面 | 具体的な不満の例 |
|---|---|
| 人間関係 | 上司からの指示が高圧的で相談しにくい。チーム内で協力する体制がなく、孤立感を感じる。 |
| 組織文化 | 風通しが悪く、部署間の連携も取れていない。失敗を過度に恐れ、挑戦を歓迎しない雰囲気がある。 |
| 理念・ビジョンへの共感 | 企業の理念やビジョンに共感できない。経営方針が一貫しておらず、将来に不安を感じる。 |
人材定着(リテンション)とは?日本の人材定着率平均

人材定着とは、企業が採用した人材が離職せず、長期間にわたって自社で働き続けてくれる状態を指します。英語では「リテンション(retention)」と呼ばれ、人事領域では従業員の維持・確保を目的とした戦略的な取り組みを意味します。
定着率の計算式
人材定着率とは、特定の期間において、どれだけの従業員が企業に在籍し続けたかを示す指標です。自社の現状を数値で把握するための基本的な計算式は、以下のとおりです。
定着率(%) = (期間開始時の在籍人数 - 期間中の離職者数) ÷ 期間開始時の在籍人数 × 100
たとえば、年度初めに100名の従業員が在籍しており、年度末までの1年間で5名が離職した場合、その年度の定着率は(100名 - 5名)÷ 100名 × 100 = 95% となります。
なお、定着率と対になる指標として「離職率」があります。離職率は「期間中の離職者数 ÷ 期間開始時の在籍人数 × 100」で計算でき、「100% - 離職率 = 定着率」の関係にあります。
【関連記事:人事組織のKPI指標例を一覧で紹介!人材配置や育成・採用など】
なお、定着率と対になる指標として「離職率」があります。離職率は「期間中の離職者数 ÷ 期間開始時の在籍人数 × 100」で計算でき、「100% - 離職率 = 定着率」の関係にあります。
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日本の産業別・平均定着率データ
自社の定着率が高いのか低いのかを判断するためには、世間一般の平均値との比較が有効です。厚生労働省が毎年公表している「雇用動向調査」によると、令和6年の1年間での常用労働者の離職率は11.5%でした。つまり、日本全体の平均的な人材定着率は約89%と考えることができます。
ただし、この数値は産業によって異なります。入職・離職ともに多いのがサービス業であり、金融・保険業では入職・離職ともに比較的落ち着いている傾向が見られます。
(参考:令和6年 雇用動向調査結果の概要|厚生労働省)
ただし、この数値は産業によって異なります。入職・離職ともに多いのがサービス業であり、金融・保険業では入職・離職ともに比較的落ち着いている傾向が見られます。
(参考:令和6年 雇用動向調査結果の概要|厚生労働省)
人材定着率を向上させるリテンション施策

従業員の離職を防ぎ、自社に定着してもらうためには、多角的なアプローチが必要です。具体的なリテンション施策(人材定着施策)を紹介します。
【採用】ミスマッチをなくす
入社後の「こんなはずではなかった」というギャップ、いわゆる採用ミスマッチは、早期離職の大きな原因となります。企業のありのままの姿を伝え、候補者の価値観やスキルが自社に本当にフィットするかを見極めることが、定着の第一歩です。
採用ミスマッチを防げるおすすめのフレームワークを以下の記事でご紹介しています。
【関連記事:【中小企業向け】採用ブランディングの教科書|ミイダスの「4M2K」で応募数・定着率の改善を目指す!】
【無料ダウンロード】うちには無理。で終わらせない!採用強化ブランディング採用ミスマッチを防げるおすすめのフレームワークを以下の記事でご紹介しています。
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【制度】公正な評価と報酬体系を構築する
評価基準が曖昧であったり、報酬に不公平感があったりすると、従業員のエンゲージメントは著しく低下します。
公正な評価と報酬体系を構築するための施策は、以下のとおりです。
公正な評価と報酬体系を構築するための施策は、以下のとおりです。
- 評価基準の明確化と公開:評価項目や基準を全社員に公開し、評価プロセスの透明性向上
- 360度評価(多面評価)の導入:複数の視点からフィードバックを得ることで、より客観的で納得感のある評価に
- 納得感のある報酬制度:会社の業績や個人の成果が給与や賞与にどう反映されるのか明確化
- 福利厚生の充実:従業員の多様なニーズに応える独自の福利厚生を整備
【環境】ワークライフバランスと柔軟な働き方を支援する
従業員が心身ともに健康で、プライベートと仕事を両立しながら長期的に働き続けられる環境を整えることは、現代の企業にとって不可欠な責務です。
働きやすい環境を整備するための具体的な施策を紹介します。
働きやすい環境を整備するための具体的な施策を紹介します。
- 柔軟な勤務制度の導入:テレワークやリモートワーク、フレックスタイム制、時短勤務制度などを導入
- 長時間労働の是正:ノー残業デーの設定や勤怠管理システムの活用により、労働時間を適切に管理
- 休暇取得の促進:有給休暇の計画的付与や、アニバーサリー休暇・リフレッシュ休暇といった特別休暇制度を整備
- 健康経営の推進:定期的なストレスチェックの実施や産業医との面談機会の提供、健康増進イベントの開催など
【育成】スキルアップとキャリア形成をサポートする
「この会社にいても成長できない」と感じることは、とくに若手や中堅社員の離職動機になりがちです。
人材育成とキャリア支援のための施策には、以下のようなものがあります。
人材育成とキャリア支援のための施策には、以下のようなものがあります。
| 施策の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 研修制度 | 新入社員研修、階層別研修、スキルアップ研修(OJT / Off-JT)、eラーニングプラットフォームの提供など |
| キャリア支援 | 定期的な1on1ミーティングによるキャリア相談、メンター制度の導入、社内公募制度、キャリアパスの明示 |
| 自己啓発支援 | 資格取得支援制度(受験料や報奨金の支給)、書籍購入補助、外部セミナー参加費用の補助など |
【文化】オープンなコミュニケーションを促進する
上司や同僚との関係性が良好で風通しの良い組織文化は、心理的安全性を高め、離職率の低下に直結します。
コミュニケーションを活性化させるための施策は、以下のとおりです。
コミュニケーションを活性化させるための施策は、以下のとおりです。
- 定期的な1on1ミーティング:上司と部下が業務だけでなく、キャリアやプライベートについても対話する機会づくり
- 社内イベントの企画:ランチ会や部活動、社員旅行など、業務外での交流機会を創出
- 感謝を伝え合う文化の醸成:サンクスカードやピアボーナス制度などを導入
- コミュニケーションツールの活用:ビジネスチャットツールや社内SNSを導入
【戦略】企業ビジョンを共有しエンゲージメントを高める
従業員が「この会社で働くことに意義を感じる」「会社の目指す方向に共感できる」と思える状態、すなわち従業員エンゲージメントが高い状態を築くことが、人材定着の根幹となります。そのためには、経営層が企業のビジョンやミッションを明確に示し、全社に浸透させることが不可欠です。
エンゲージメント向上のための戦略的な施策を紹介します。
エンゲージメント向上のための戦略的な施策を紹介します。
- MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透:経営理念や行動指針を策定し、社内報や全体会議など、あらゆる機会を通じて繰り返し発信
- 経営層からの情報発信:経営トップが自らの言葉で会社の現状や将来の展望を語る場(タウンホールミーティングなど)を定期開催
- 従業員サーベイの実施と活用:エンゲージメントサーベイやパルスサーベイを定期的に実施し、組織の課題を可視化
- 権限移譲と挑戦の推奨:従業員に裁量権を与え、失敗を恐れずに挑戦できる文化を醸成
人材定着に向けた実践ステップ

自社の課題を正確に把握し、効果的な改善策を実行、そして継続的に見直していくための3つの実践ステップを解説します。
離職理由と従業員のモチベーションを分析する
人材が定着しない根本原因を突き止めなければ、適切な対策は打てません。定量・定性の両面から現状を分析しましょう。
定量データの分析
まずは客観的な数値データから組織の状態を把握します。部署別、年代別、職種別など、属性を細かくわけて分析することで、とくに課題の大きい層が見えてきます。
- 離職率・定着率
- 平均勤続年数
- 時間外労働時間
- 有給休暇取得率
定性データの収集と分析
数値だけでは見えない従業員の「本音」を引き出すためには、直接的な対話やアンケートが有効です。とくに、退職者の意見は課題解決の宝庫と言えます。
- 退職者インタビュー(エグジットインタビュー):退職を決意した従業員から、直接離職理由や会社への意見を聞き出す
- 従業員満足度調査(ES調査):匿名のアンケート調査を定期的に実施し、全従業員の満足度やエンゲージメントを測定。パルスサーベイも有効
- 1on1ミーティング:部下のキャリアプランや悩み、モチベーションの源泉などを深く理解する絶好の機会
課題に優先順位を付けて改善策を実行する
分析によって明らかになった課題は多岐にわたります。すべてに同時に着手するのは現実的ではないため「緊急度」と「重要度」の2軸で優先順位を付けましょう。
優先順位が決まったら、具体的な改善策(アクションプラン)を策定します。その際「誰が」「いつまでに」「何を」「どのように」行うのかを明確にすることが、計画倒れを防ぐポイントです。KPI(重要業績評価指標)も設定し、目標を具体化しましょう。
優先順位が決まったら、具体的な改善策(アクションプラン)を策定します。その際「誰が」「いつまでに」「何を」「どのように」行うのかを明確にすることが、計画倒れを防ぐポイントです。KPI(重要業績評価指標)も設定し、目標を具体化しましょう。
アクションプランの策定例
| 優先課題 | 具体的な改善策 | 担当部署 | KPI | 期限 |
|---|---|---|---|---|
| 若手社員のキャリアパスへの不安 | キャリア面談の定期実施(半期に1回)、メンター制度の導入 | 人事部・各事業部 | キャリア面談実施率100%、メンター制度利用者数 | 3ヶ月以内 |
| 部署間のコミュニケーション不足 | 社内SNSの活性化、部門横断プロジェクトの発足 | 経営企画部 | 社内SNS投稿数、プロジェクト参加人数 | 6ヶ月以内 |
| 評価制度への不満 | 評価基準の明確化と全社説明会の実施、評価者研修の導入 | 人事部 | 従業員満足度調査における評価項目スコアの向上 | 次期評価期間まで |
効果を測定し、施策を継続的に見直す
施策は実行して終わりではありません。必ず効果測定を行い、計画どおりに進んでいるか、期待した効果が出ているかを確認し、必要に応じて軌道修正を行います。人材定着は一朝一夕に成し遂げられるものではなく、この継続的な改善サイクルこそが最も重要です。
【関連記事:早期離職が起きる原因は何?引き起こすデメリットや対策を紹介】
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成功事例から学ぶ人材定着のヒント

ここでは、実際に人材定着に成功している企業の取り組みを紹介します。
医療法人深慈会
人材不足が深刻な医療業界ですが、医療法人深慈会ではミイダスを活用してスカウトを行い、「トライ応募」にも対応しながらミスマッチを防ぐ採用活動を展開しています。
【事例:「スカウト」だけではない。ミイダス コンピテンシー診断(特性診断)、トライ、スポット…「ミイダス」で、採用と組織が変わる】
【事例:「スカウト」だけではない。ミイダス コンピテンシー診断(特性診断)、トライ、スポット…「ミイダス」で、採用と組織が変わる】
株式会社エコリース
株式会社エコリースは、従業員のやりがいを大切に人材育成・組織開発を行っています。ミイダスのコンピテンシー診断(特性診断)を活用し、会社の目標と個人の成長意欲を接続させることで、高い従業員エンゲージメントを維持し、人材定着を実現しています。
【事例:ミイダスのミイダス コンピテンシー診断(特性診断)を自社の課題発見や組織作りにも活用、研修コンテンツも役立っている】
【事例:ミイダスのミイダス コンピテンシー診断(特性診断)を自社の課題発見や組織作りにも活用、研修コンテンツも役立っている】
人材定着に関するよくある質問

人材定着に関して企業の人事担当・経営者の方から寄せられることの多い質問にお答えします。
中小企業が人材定着を図るポイントは?
中小企業は、大企業に比べて採用や育成にかけられるコストやリソースが限られている傾向にあります。しかし、中小企業ならではの強みを活かすことで、効果的に人材定着率を高めることが可能です。
ポイントは、経営層と従業員の距離の近さや意思決定のスピード、組織の柔軟性を最大限に活用することです。画一的な施策ではなく、自社の状況や従業員一人ひとりの顔が見える関係性を活かしたアプローチが求められます。
ポイントは、経営層と従業員の距離の近さや意思決定のスピード、組織の柔軟性を最大限に活用することです。画一的な施策ではなく、自社の状況や従業員一人ひとりの顔が見える関係性を活かしたアプローチが求められます。
人材定着指導士という資格について知りたい
人材定着指導士は、一般社団法人 日本人材定着協会が認定する民間資格です。企業の持続的な成長に不可欠な「人材の定着」に関する専門知識と実践的なスキルを持つプロフェッショナルを育成することを目的としています。
この資格を取得する過程では、採用戦略、育成体系の構築、公正な評価制度の設計、エンゲージメント向上のための組織文化づくりなど、リテンションマネジメントに関する幅広い知識を体系的に学びます。
社内での提案に説得力が増すだけでなく、自身のキャリアアップにもつながる資格として注目されています。
この資格を取得する過程では、採用戦略、育成体系の構築、公正な評価制度の設計、エンゲージメント向上のための組織文化づくりなど、リテンションマネジメントに関する幅広い知識を体系的に学びます。
社内での提案に説得力が増すだけでなく、自身のキャリアアップにもつながる資格として注目されています。
ミイダスで自社にフィットする人材を採用・育成

人材定着は、企業の持続的な成長に不可欠です。本記事で解説したとおり、報酬や労働環境、キャリアパスなど、離職の原因は多岐にわたります。
これらの課題解決には、採用段階でのミスマッチ防止から育成、環境整備まで一貫した施策が重要です。とくに、自社にフィットする人材を見極める採用は定着の第一歩となります。ミイダスは、コンピテンシー診断(特性診断)で活躍人材を見極めるのに役立ちます。ミイダスを活用し、採用と育成の両面から人材定着を実現しましょう。
これらの課題解決には、採用段階でのミスマッチ防止から育成、環境整備まで一貫した施策が重要です。とくに、自社にフィットする人材を見極める採用は定着の第一歩となります。ミイダスは、コンピテンシー診断(特性診断)で活躍人材を見極めるのに役立ちます。ミイダスを活用し、採用と育成の両面から人材定着を実現しましょう。



