語彙力とは状況や相手に応じて言葉を選び、わかりやすく説明する能力です。言葉の選択は相手に与える印象を大きく左右します。

そのためTPOに合わせた言葉の使い分けは、ビジネスパーソンに不可欠なスキルと言えるでしょう。

しかし近年、日本人の語彙力低下が指摘されています。スマートフォンやタブレットの普及に伴い、短文コミュニケーションが増加したことや、活字に触れる機会が減少しているため、使用できる語彙の幅が次第に狭まっているのです。

本記事では、語彙力の重要性や語彙力が低い人の特徴を解説し、個人でできる語彙力向上方法や企業の取り組み事例を紹介します。従業員の語彙力を底上げし、円滑な社内コミュニケーションの実現を目指しましょう。

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語彙力とは、個人が持つ単語の知識と、状況に応じて最適な言葉を選択・使用する能力を指します。単に言葉を覚え、知識を増やすだけでなく、言葉を臨機応変に使いこなす力も「語彙力」に含まれるのです。

たとえば、大事な商談の場で使う言葉と友人と遊ぶときに使う言葉では、当然異なるべきです。うれしい気持ちを伝える場合、友人に対しては「めっちゃうれしい」などの表現も許容されるでしょう。

しかし、商談成立時に取引先に感謝を伝える際は、以下のような表現が適切です。

「心からうれしく思います」
「浮き立つ思いです」
「舞い上がるような気持ちです」

文章の専門家である山口拓朗氏は「語彙力＝言語活用能力」だと指摘しています。

語彙力を身につけ、高めることが重要と言われる理由は何でしょうか。その理由は以下の通りです。

語彙力は円滑なコミュニケーションの基盤となる重要な能力です。明治大学文学部教授の齋藤孝氏は著書の中で「語彙力を身につけることは、いままで8色でしか表現できなかった世界が、200色で表現できるようになること」と喩えています。

つまり語彙が豊富であれば、自分の考えや感情をより正確に伝えられるのです。

また、語彙力は相手の言葉を的確に理解するためにも重要です。語彙が乏しいと、相手の発言の真意を捉えられず、誤解や意思疎通の齟齬を生む可能性があります。

たとえば取引相手が「少し色をつけていただけないでしょうか？」と言ったとします。「色をつける」とは「物事の扱いに情を加える。値引きしたり、割増したりする」ことを指しますが、これを知らない場合「何色がよろしいですか？」などと、的外れな回答をしてしまうかもしれません。

語彙力があれば、相手の言葉のニュアンスまで理解でき、より深いコミュニケーションが可能になります。

社内のコミュニケーションを円滑にする方法については以下の記事で詳しく解説しています。

【関連記事：社内のコミュニケーションストレスの原因は？軽減方法を解説】

出典：齋藤 孝『 語彙力こそが教養である』 (角川新書) (p.5).Kindle 版. 
出典：山口 謠司『じつは伝わっていない日本語大図鑑 』(p.17). 東洋経済新報社. Kindle 版

語彙力は、ビジネスパーソンとしての評価を左右する重要な要素です。大東文化大学名誉教授の山口謠司氏は「社会人としてのレベルを、語彙力で測られる現実がある」と鋭く指摘しています。

どんなにスキルが高くても、不適切な表現を用いると、その評価は大きく下がってしまうものです。

たとえば上司への挨拶で「ご苦労様です」という言葉を使うと、上下関係を理解していない、あるいは言葉遣いが適切でないと受け取られる可能性があります。「ご苦労様」は上位の者から下の者へ掛けるフレーズだからです。

代わりに「お疲れ様です」や「お世話になっております」などの言葉を選ぶことで、相手への敬意を示せます。

このように状況に合った言葉遣いができないと、誤解を招いたり、失礼な印象を与えたりする恐れがあるのです。話す言葉はその人の品格や品位を表すため、語彙力を高める努力が求められます。

豊かな語彙力を身につけることで、適切な言葉選びができるようになり、仕事でもプライベートでも、一目置かれる存在になれるでしょう。

よりよい印象を相手に与えるコツについては、以下の記事で詳しく解説しています。

【関連記事：メラビアンの法則とは？職場・採用場面での第一印象アップのコツをわかりやすく解説】

出典：山口 謠司『 語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』 (p.3). 株式会社ワニブックス. Kindle 版

語彙力が低い人に共通する特徴は以下の通りです。

それぞれ解説します。

語彙力が乏しい人は、限られた言葉を繰り返し使用するため、会話に変化がなく単調な印象を与えがちです。感情を表現する際も「すごい」「ヤバい」「ウケる」など、ごく一部の語句に頼ることが多く、表現のバリエーションに乏しいのが特徴です。

そのため話の内容に深みが出ず、相手に説得力や興味を持たせるのが難しくなります。一方、豊富な語彙を持つ人は、状況に応じて多様な言葉を使い分け、会話に彩りを添えられます。

言葉の幅を広げることで、自分の考えや感情をより的確に伝えられるようになるでしょう。

語彙力が低い人は、普段から活字や文章に触れる機会が少ない傾向にあります。スマートフォンやタブレットの利用時間が長く、読書量そのものが非常に少ないことがその原因の一つと考えられます。

新しい言葉や表現に触れる機会が少ないため、知らない単語を学ぶ意欲も低くなりがちです。語彙力を高めるには、積極的に文章に触れることが大切です。自分の考えをより豊かに表現できるようになります。

適切な言葉選びができず、曖昧で不正確な表現になることがあります。言葉の意味や使い方を正しく理解していないため、ニュアンスの違いを捉えられず、不適切な言葉を使ってしまうケースもあるのです。

言葉の誤用は、相手に不快感を与え、意図が正確に伝わらず誤解を招く原因になります。状況に応じた適切な言葉選びができるよう、語彙力を高めることが大切です。

語彙力を伸ばす方法を以下3つ解説します。

それぞれ解説します。

読書習慣を身につけ、活字に触れる機会を増やしましょう。明治大学文学部教授の齋藤孝氏は著書『語彙力こそが教養である』の中で次のように語っています。

「語彙とは、主に活字で鍛えられるものです。大切なのは、活字によるインプットの機会を、どれだけ日常のなかに取り込むか。この「日常の中に」という点が、継続的に語彙を増やすポイントになります」

また、株式会社ベネッセコーポレーションが実施した「第1回 現代人の語彙(ごい)に関する調査」によると、読書量が多く、読書の分野が幅広い人ほど語彙力が高いことがわかりました。

小説や物語だけでなく、ノンフィクションやビジネス書など幅広く読むのが大切です。以下、語彙力を伸ばす読書におすすめの本をいくつかご紹介します。

参考：高校生から60代までの約3,000名を対象「第1回　現代人の語彙(ごい)に関する調査」　結果速報～厳選540語について、熟知度とその背景を探る～｜PR TIMES

株式会社ベネッセコーポレーションが2018年に実施した「第3回 現代人の語彙(ごい)に関する調査」によると、学校で作文や小論文、レポートなどの長い文章を書く機会が多い学生ほど、語彙力が高い傾向が見られました。

学校で求められるフォーマルな文章は、メールやブログといった私的な文章とは異なり、読み手や目的を意識した言葉選びを必要とします。伝え方を意識して文章を書く経験が、語彙力向上につながると考えられるのです。

さらに同調査では、書いた文章を人前で発表したり、添削された文章を見直したりする機会がある人ほど、語彙力が高いことも明らかになりました。周囲の反応や添削を通して自分の言葉選びを見直すことで、語彙力が高まるのです。

図表引用：高校生から60代までの約3,000名を対象　「第3回　現代人の語彙(ごい)に関する調査」結果速報｜PR TIMES

「すごい」「やばい」などの抽象的な言葉で済ませるのではなく、名詞や動詞を使って詳細に伝えることを意識しましょう。

たとえば「このクッキーやばいよ〜超うまい」ではなく「このクッキーはバターがたっぷりで病みつきになるよ！」と表現することで、相手により伝わりやすくなります。

普段の会話で意識して実践することが、語彙力アップへの第一歩となるでしょう。

企業全体で語彙力向上に取り組むには、社内読書会の開催が効果的です。読書した内容を意見交換すると、新しい表現に触れるとともに、自分の考えを言語化する機会が生まれます。

これにより社員は、多様な語彙や表現方法を学び、コミュニケーション能力を高められるのです。

富士通グループでは2017年6月から「あすよみ」という読書会を開始し、社内外からのべ1000名以上が参加しているそうです。読書会では共通の課題図書や選択制の推薦図書について、参加者同士が活発に議論を交わしています。

とくに2018年のベストセラービジネス書「ティール組織」を題材にした回では、満員につき追加開催を重ね、3か月間で計6回167名が参加する一大イベントとなりました。

本から得た知見を共有し議論することで、新しいアイデアやビジョンが生まれ、組織全体の知的資産となっていると言います。このように読書会は、インプットとアウトプットを通じて、社員の語彙力や表現力を向上させ、成長と企業の発展を促進する有効な施策と言えるでしょう。

参考：組織を内側から変えていく力を育てる”読書会”のススメ｜FUJITSU

語彙力を高めるには、読書、文章作成、具体的な表現の使用という3つの取り組みが効果的です。読書を通じて新しい言葉や表現に触れ、文章を書く経験を積むことで、言葉の活用力を養えます。

また日常会話においても「すごい」「やばい」などの抽象的な言葉を使うのではなく、名詞や動詞を用いて具体的に表現することを心がけましょう。

しかし、社員個人の努力に任せていては、語彙力を鍛える継続的な取り組みが難しい場合もあります。そこで、会社としても読書会の開催や書籍購入費用の補助など、学ぶ意欲のある社員をサポートする施策を講じるのが重要です。

経営層が率先して読書に取り組み、社員と知識を共有する姿勢を示すのも効果的でしょう。会社全体で語彙力向上に取り組めば、社内コミュニケーションがスムーズになり、業務の効率化や問題解決力の向上につながる可能性があります。

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