企業の経営者や経理担当者のなかには、人件費の計画見直しや勤務実態の再確認など、対応に追われるケースもあるのではないでしょうか。
本記事では、2026年税制改正のポイントと、中小企業が講じるべき対策を解説します。
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「年収の壁」とは|2026年(令和8年)最新の変更ポイントを整理
「年収の壁」の意味と背景
一定の収入を超えると税金や社会保険料の負担が増加するため、その分手取りが減少します。収入減を回避する目的で、働く時間を調整する労働者も少なくありません。
以上の背景から、税金や社会保険料の負担がかからない収入基準を、「年収の壁」と呼ぶようになりました。
<2026年(令和8年)の税制・社会保険制度改正による「年収の壁」の変更一覧>
| 呼称 | 2025年 | 2026年10月1日現在 | 今後の変更 | 変更点の概要 |
|---|---|---|---|---|
| 税金の壁(所得税) | 160万円 | 178万円 | ― | 基礎控除・給与所得控除の見直しにより、給与収入のみの場合の課税最低限が引上げ |
| 税金の壁(住民税) | 約100万円 | 110万円 | 119万円(2027年度~) | 給与所得控除の最低保障額等の見直しにより引上げ。住民税非課税となる収入額は自治体等により異なる |
| 税金の壁(配偶者控除・扶養控除等) | 123万円 | 136万円 | ― | 2026年度の配偶者控除・一般扶養控除の親族側所得要件を給与収入換算した目安額 |
| 社会保険の壁(106万円) | 106万円 | 賃金要件撤廃 | 短時間労働者の社会保険加入要件のうち、2026年10月に月額8.8万円以上という賃金要件を撤廃 | |
| 社会保険の壁(130万円) | 130万円 | 130万円 | ― | 被扶養者認定に係る年間収入要件は原則変更なし |
※出典:令和8年度税制改正の大綱|財務省
※出典:「年収の壁」への対応|厚生労働省
所得税の課税対象となる年収の壁は、160万円から178万円へ引き上げられました(給与所得のみの場合)。住民税に関しては、基礎控除は変更ありませんが、給与所得控除の最低保証額が55万から65万円に引き上げられ、非課税となる年収基準が変更になります(2026年12月1日施行)。
社会保険に関しては、短時間労働者の社会保険の加入要件だった「月額賃金88,000円以上(年収106万円)」が最低賃金の引き上げにより事実上解消されるため、厚生労働省はこの加入要件について2026年10月に撤廃しました。
所得税・住民税の年収の壁の引き上げにより、労働者が働くのを控える動きが緩和される一方、社会保険料は引き続き企業側への負担が求められます。
「税金の壁」と「社会保険の壁」の違い
同じ「年収の壁」という呼称であっても、これらは課税の仕組みと社会保険の加入要件という、全く異なる基準に基づいています。
<税金の壁と社会保険の壁の違い>
| 呼称 | 主な制度・基準 | 壁を超えた場合の主な影響 |
|---|---|---|
| 税金の壁 | 所得税・住民税、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除等 | 本人に税負担が生じたり、家族が受ける所得控除の額が変わったりする |
| 社会保険の壁 | 健康保険・厚生年金保険への加入要件、健康保険の被扶養者・国民年金第3号被保険者の要件 | 勤務先の社会保険への加入や、家族の扶養から外れることにより、社会保険料の負担が生じる場合がある |
税金の壁
- 住民税の壁
本人に住民税がかかり始める年収の目安。金額は自治体や扶養状況などによって異なるため、全国一律ではありません(目安として単身・給与所得のみの例では2026年度110万円、2027年度119万円となります)。 - 136万円の壁(配偶者控除)
給与収入のみの配偶者について、配偶者控除の対象となる年収の上限。2026年分は136万円以下です。ただし、136万円を超えても一定範囲では配偶者特別控除が適用されるため、直ちに控除がなくなるわけではありません。 - 扶養控除等の壁
配偶者以外の親族については別の所得要件があります。特に19歳以上23歳未満の親族については特定親族特別控除があり、一般の扶養親族とは扱いが異なります。 - 178万円の壁(本人の所得税)
給与収入のみの場合、本人の所得税負担が始まる年収の目安。2026年分から課税最低限が178万円以上に引き上げられています。
社会保険の壁
- 労働時間の壁(健康保険・厚生年金保険)
短時間労働者が勤務先の健康保険・厚生年金保険に加入する基準に関する「壁」です。従来は、週の所定労働時間が20時間以上であることに加え、所定内賃金が月額8.8万円以上(年収換算で約106万円)であることなどが加入要件とされていました。
この要件について、2025年に成立した年金制度改正法により、月額8.8万円以上という賃金要件は2026年10月に撤廃されました。なお、企業規模要件は段階的に縮小されるため、賃金要件の撤廃後も、すべての事業所で「週20時間以上働けば必ず加入」となるわけではありません。 - 130万円の壁(健康保険の被扶養者・国民年金第3号被保険者)
家族の健康保険の被扶養者や、配偶者に扶養される国民年金第3号被保険者でいられるかどうかに関する「壁」です。原則として年収130万円以上になると被扶養者等の要件から外れます。
その場合、勤務先の健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たしていれば勤務先の社会保険に加入し、満たしていなければ原則として国民健康保険・国民年金に加入することになります。なお、被扶養者の年齢等によって収入要件が異なる場合があります。
専門家からのアドバイス
一方、社会保険は新たに保険料負担が生じ、一時的に手取りが減る場合があります。「○万円以内」にこだわるのではなく、税・社会保険料を含めた手取りを試算することが大切です。
従業員から扶養内勤務の相談を受けた際も、まず「どの壁を気にしているのか」を確認しましょう。
中小企業が「年収の壁」問題を放置するリスク
- 年末や繁忙期の「働き控え(就業調整)」による人手不足
- 「手取り逆転現象」によるパート・アルバイトのモチベーション低下
- 制度理解不足による労務トラブル
- 法改正への対応遅れによる経営リスク
- 国や自治体の助成金・支援制度を逃す機会損失
年末や繁忙期の「働き控え(就業調整)」による人手不足
繁忙期における労働力の欠如は生産性の低下を招き、人材不足を固定化させる悪循環に陥るおそれがあります。
「手取り逆転現象」によるパート・アルバイトのモチベーション低下
税金や社会保険料の負担増による実質的な「手取り逆転現象」に対し、福利厚生の充実や報酬制度の整備などの対策を講じなければ、企業は深刻な人材不足に直面するでしょう。
制度理解不足による労務トラブル
社会保険の加入要件を満たしている従業員を未加入のまま放置すると、保険料の「遡及徴収」が発生するリスクがあります。労務トラブルは、企業の信頼性にも関わってくるため、特に税制改正が続く昨今は、専門家にも相談しながら実務やルール整備を進めていく必要があるでしょう。
法改正への対応遅れによる経営リスク
2026年10月には、短時間労働者の社会保険加入要件のうち、所定内賃金が月額8.8万円以上(年収換算で約106万円)という賃金要件が撤廃されます。これにより、対象となる事業所では、週の所定労働時間が20時間以上であることなどを基準に、健康保険・厚生年金保険への加入を判断することになります。
一方、短時間労働者に社会保険を適用する企業の規模要件は一度に撤廃されるのではなく、段階的に縮小されます。2027年10月から「常時35人超」、2029年10月から「常時20人超」、2032年10月から「常時10人超」の企業へと対象が拡大し、2035年10月には企業規模要件そのものが撤廃される予定です。
このため、現在は短時間労働者への社会保険の適用対象となっていない中小企業でも、今後、企業規模に応じて新たに加入対象者が生じる可能性があります。対象となる時期や従業員の働き方をあらかじめ確認し、将来発生する社会保険料の事業主負担を見込んだ人員配置や人件費計画を立てておくことが重要です。
このスケジュールを把握せず準備を怠れば、強制適用の段階で社会保険料の企業負担が増加し、経営を圧迫するリスクをはらんでいます。
企業向け支援制度の活用機会を逃すリスク
以下の制度は、いずれも事業主からの申請が必須です。活用漏れはそのまま企業の損失に直結するため、確認をおすすめします。
- キャリアアップ助成金「短時間労働者労働時間延長支援コース」
短時間労働者を新たに社会保険に加入させるとともに、週所定労働時間の延長や賃金増額など所定の取り組みを行った事業主に、労働者1人あたり最大75万円(小規模企業の場合)を助成[注1]。 - 保険料調整制度
社会保険の適用拡大等により新たに加入する一定の短時間労働者について、健康保険・厚生年金保険の本人負担を通算3年間軽減する制度(2026年10月開始。事業主が一時的に追加負担した分は後に調整されるため、最終的に事業主が納付する保険料は増えない)[注2]。
[注1]出典:キャリアアップ助成金|厚生労働省
[注2]出典:保険料調整制度のご案内|日本年金機構
専門家からのアドバイス
まずは加入対象となる従業員と本人の働き方の希望を把握し、利用できる制度や必要な手続きを確認しましょう。
特に助成金は、取組開始後では間に合わない場合もあるため、労働時間や賃金を変更する前から早めに検討することがポイントです。
「年収の壁」の改正が中小企業の実務に与える影響
給与計算・年末調整への影響
企業は、改正後の制度に対応した給与計算・年末調整を行うとともに、従業員から提出される申告書類について、適用される控除の要件を正しく確認する必要があります。
特に、配偶者や扶養親族がいる従業員については、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除、特定親族特別控除など、それぞれ所得要件が異なるため注意が必要です。
給与計算ソフトや年末調整システムが税制改正に対応しているかを確認するとともに、従業員に対しても、改正後の制度に対応した申告書を正しく提出してもらえるよう案内しておきましょう。
入社・退職時の社会保険加入判定への影響
企業は、自社が短時間労働者への社会保険の適用対象となる時期を確認するとともに、週の所定労働時間が20時間以上であるか、2ヶ月を超えて使用される見込みがあるか、学生に該当しないかなどの加入要件を、従業員ごとに確認する必要があります。
雇用契約の変更などによって加入要件を満たすこともあるため、入社時だけでなく、契約更新や労働時間の変更時にも加入要件を確認できる管理体制を整えておきましょう。
専門家からのアドバイス
特に社会保険は、企業規模や週の所定労働時間、雇用期間、学生かどうかなど、複数の要件で加入を判断します。年末にまとめて確認するのではなく、入社・契約更新・労働条件の変更時などに確認する仕組みを整えましょう。
また、「扶養内で働きたい」という相談には、税金と社会保険のどちらの扶養を意識しているのかを確認することが重要です。
【2026年版】中小企業が「年収の壁」に対応するための4つのステップ
- ステップ1:現状把握と財務影響のシミュレーション
- ステップ2:従業員への「1対1」個別キャリア面談の実施
- ステップ3:必要に応じた労働条件の見直し・書面化
- ステップ4:支援制度の活用と必要な社内制度の整備
ステップ1:現状把握と財務影響のシミュレーション
2026年10月には、短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の加入要件のうち、所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件が撤廃されます。また、その後は企業規模要件も段階的に縮小されるため、これまで社会保険の加入対象ではなかった従業員が、新たに対象となる可能性があります。
特に、週の所定労働時間が20時間以上の短時間労働者については、自社が社会保険の適用対象となる時期とあわせて加入要件を確認しておきましょう。
あわせて、家族の健康保険の扶養に入っている従業員については、被扶養者認定に関する収入要件も確認しておくと、従業員から働き方について相談を受けた際に対応しやすくなります。
今後、新たに社会保険へ加入する従業員が見込まれる場合には、会社が負担する健康保険料・厚生年金保険料などを試算し、人件費への影響をあらかじめ把握しておくことが重要です。
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ステップ2:従業員への「1対1」個別キャリア面談の実施
また、対象となる場合には、保険料調整制度によって一定期間、本人負担が軽減される仕組みもあります。ただし、すべての労働者が対象となる制度ではないため、自社の従業員が対象になるかを確認したうえで案内することが大切です。
面談では、「社会保険に入りたくないから週20時間未満にする」と結論を急がせるのではなく、現在の手取り、今後希望する収入、働ける時間、家庭との両立なども踏まえて、本人が納得できる働き方を一緒に整理していくとよいでしょう。
■「もっと働きたい層」と「扶養内希望層」など、適性や志向でアプローチ分けしてみる
面談を成功させるコツは、全員に同じ説明をするのではなく「就労意欲」や「キャリア指向」を見極めてアプローチを変えることです。「将来的にフルタイムを目指したい層」には社会保険加入のメリットを、「家庭優先で扶養内を固く希望する層」には効率的なシフト枠を提示するなど、事前に意向を聞いておくと、面談がスムーズに進みます。
ステップ3:必要に応じた労働条件の見直し・書面化
特に短時間労働者の社会保険加入を判断する際には、実労働時間だけでなく、雇用契約上の週の所定労働時間などが重要な判断基準となります。契約上の労働条件と実際の働き方に継続的なずれが生じている場合は、契約内容や社会保険の加入状況を確認し、必要に応じて見直しましょう。
新たに健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たした場合は、事業主が被保険者資格取得届を事実発生から5日以内に日本年金機構へ提出する必要があります。労働条件の変更によって加入対象となる可能性がある従業員については、変更時期と社会保険の資格取得日をあらかじめ確認し、必要な手続きを準備しておくことが大切です。
ステップ4:支援制度の活用と必要な社内制度の整備
また、キャリアアップ助成金などの支援制度を活用する場合は、実際に取り組みを始める前に、対象となる労働者や取組内容、支給要件、必要な手続きとその期限を確認しておくことが重要です。 社会保険に加入した後や労働時間・賃金を変更した後では、助成対象とならない場合があります。
特にキャリアアップ助成金の活用を検討する場合は、「社会保険への加入が決まってから手続きを考える」のではなく、加入時期や労働条件の変更を決める段階から、早めに管轄労働局や専門家等に確認し、必要な準備を進めておきましょう[注]。
[注]出典:キャリアアップ助成金|厚生労働省
専門家からのアドバイス
労働時間や賃金を変更する場合は、合意内容を労働条件に反映し、必要な社会保険手続きを行います。
助成金の活用を検討する場合は、変更後では間に合わないこともあるため、労働条件を変更する前に利用要件を確認することがポイントです。
年収の壁に関するよくある質問
- Q
2026年(令和8年)の税制改正で「年収の壁」はどう変わりましたか?
- A
税制では、給与収入のみの場合の所得税の課税最低限が、2025年分の160万円から2026年分は178万円に引き上げられます。
社会保険については、2025年に成立した年金制度改正法により、短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の加入要件のうち、所定内賃金が月額8.8万円以上(年収換算で約106万円)という賃金要件が2026年10月に撤廃されます。企業規模要件についても、その後段階的に縮小されます。
税金と社会保険では改正の根拠や時期が異なります。 - Q
「税金の壁」と「社会保険の壁」の違いは?
- A
「税金の壁」は、本人に所得税・住民税がかかり始める基準や、配偶者控除・扶養控除など家族の税負担に影響する基準です。
一方、「社会保険の壁」は、勤務先の健康保険・厚生年金保険への加入や、家族の健康保険の被扶養者・国民年金第3号被保険者の認定に関係する基準です。
税金は壁を少し超えただけで手取りが大きく減るとは限りませんが、社会保険は新たに保険料負担が発生し、一時的に手取りが減る場合があります。 - Q
「年収の壁」の改正は企業の実務にどのような影響を与えますか?
- A
税制改正については、給与計算や年末調整において、改正後の基礎控除・給与所得控除や、配偶者・扶養親族等に関する控除の要件を正しく反映する必要があります。
社会保険については、賃金要件の撤廃や今後の企業規模要件の段階的な縮小によって、これまで加入対象ではなかった短時間労働者が新たに加入対象となる可能性があります。
企業は、自社が適用対象となる時期を確認するとともに、従業員の週所定労働時間などの加入要件を把握し、将来の社会保険料の事業主負担も見込んでおく必要があります。 - Q
最新の税制改正を踏まえて、中小企業は具体的にどう対応するべきですか?
- A
まず、自社の短時間労働者の労働時間や賃金、社会保険の加入状況を把握し、今後新たに加入対象となる従業員がいるかを確認しましょう。
そのうえで、従業員に制度を説明し、今後どのような働き方を希望するのかを確認します。労働時間や賃金などを変更する場合は、本人との合意内容を労働条件通知書や雇用契約書などに適切に反映し、必要な社会保険手続きを行います。
また、キャリアアップ助成金などの支援制度を活用する場合は、取組を始めた後では利用できない場合もあるため、労働条件の変更や社会保険加入を行う前の段階から、最新の支給要件や必要な手続きを確認しておくことをおすすめします。
まとめ:「年収の壁」対策は経営戦略として早急に着手する
「年収の壁」対策を先送りすると、人材流出や経営リスクの増大を招く恐れがあります。
一方で、適切に対応し、納得感のある制度や労働環境を整えれば、企業全体の生産性向上や定着率の向上にもつながります。
本記事で解説した4つのステップを軸に、まずは自社の現状可視化とシミュレーションから着手しましょう。法改正への対応を「コスト」や「手間」で終わらせず、組織強化の好機に変えるためにも、専門家と連携しながら早めの準備を進めましょう。
【資料ダウンロード:ミイダス勤怠管理 | お役立ち資料】
※本記事の情報は2026年10月1日時点の内容です。最新の内容については厚生労働省、日本年金機構、国税庁等のWebサイトにてご確認ください。

村井社会保険労務士事務所 代表/社会保険労務士・キャリアコンサルタント・経営学修士(MBA)
総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。LGBTQ+アライ。行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』『職場問題ハラスメントのトリセツ』、漫画『御社のモメゴト』の原作など。






