「みなし残業代を導入すべきか」と悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。みなし残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。
本記事では、みなし残業代(固定残業代)とは何か、計算方法、導入するメリット・デメリット、注意点などを解説します。
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▼この記事でわかること
みなし残業代(固定残業代)とは?
みなし残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。一般的に「固定残業代」とも呼ばれます。
毎月の給与額が一定額になるため、企業側にとっては人件費の管理がしやすくなります。従業員側にとっても、残業が少ない月でも一定額の残業代を受け取ることができるというメリットがあります。みなし残業代(固定残業代)とみなし労働時間制の違い
みなし残業代と混同されやすい制度に「みなし労働時間制」があります。どちらも一定の労働時間を前提とする点で共通していますが、その内容には大きな違いがあります。正しく理解するために、両者の違いを明確にしましょう。項目 みなし残業代(固定残業代) みなし労働時間制 意味 あらかじめ給与に一定時間分の残業代を含めて支給する制度 実際に働いた時間にかかわらず、一定の時間を働いたものとみなす制度 対象となる時間 残業時間 所定労働時間+残業時間 給与への影響 残業代が給与に含まれている みなし労働時間分の賃金が支払われる 導入要件 労使協定の締結は必須ではない(ただし、就業規則への明示は必要) 労使協定の締結が必須 労働時間管理 必要 原則として不要(ただし、健康確保措置として一定の管理は必要)
みなし残業代は、あらかじめ給与に残業代を含めて支給する制度です。残業の有無にかかわらず、固定額の残業代が支払われます。一方、みなし労働時間制は、実際に働いた時間にかかわらず、一定の時間を働いたものとみなす制度です。たとえば1日8時間働いたものとみなす場合、実際の労働時間が8時間を超えても、8時間分の賃金しか支払われません。
このように、両者はまったく異なる制度です。混同しないように注意しましょう。みなし残業代(固定残業代)を導入するメリット
みなし残業代(固定残業代)のしくみを導入するメリットは以下のとおりです。- 人件費の管理がしやすくなる
- 従業員の給与が安定する
- 労務管理の効率化につながる
- 求人時にアピールできる
人件費の管理がしやすくなる
みなし残業代を活用すると、毎月の残業時間に関わらず人件費が一定になるため、予算管理が容易になります。残業代の変動に左右されることなく、人件費を予測・コントロールできるため、経営の安定化に貢献します。
例えば、営業職など残業時間の変動が大きい職種の場合、みなし残業代を活用することで、人件費の予算超過リスクを軽減できます。導入前 導入後 残業時間に応じて人件費が変動 人件費が一定 予算管理が複雑 予算管理が容易 予想外の人件費増加のリスク 人件費の予測・コントロールが可能
また、みなし残業代を活用することで、人事・労務担当者の業務負担も軽減されます。残業時間の集計や残業代の計算といった作業が簡素化されるため、他の業務に時間を充てることができます。
さらに、企業規模が拡大した場合でも、みなし残業代のしくみを導入することで、人件費の管理を効率的に行うことができます。従業員数が増加しても、人件費の変動要因が少なくなるため、安定した経営を維持しやすくなります。従業員の給与が安定する
みなし残業代によって従業員の毎月の給与額が固定化されるため、給与の安定につながります。残業が少ない月でも一定額の残業代が支払われるため、収入の変動が少なくなり、生活設計を行いやすくなります。メリット 説明 収入の予測可能性向上 毎月一定額の給与が保証されるため、収入を予測しやすくなります。 生活設計の安定化 収入の変動が少ないため、安定した生活設計を立てることができます。 モチベーションの維持 労働時間に関わらず一定の収入が得られるため、モチベーションの低下を防ぐ効果も期待できます。
特に以下のような従業員にとってはメリットがあります。- 生活費の支出が一定額で、収入の変動を避けたい従業員
- 住宅ローンや教育ローンなど、毎月一定額の返済が必要な従業員
- 副業や兼業で収入を得ており、本業の収入を安定させたい従業員
このように、みなし残業代は従業員の生活の安定に貢献する側面も持っています。ただし、後述する「みなし残業代の違法性と注意点」で解説するように、適切な設定と運用が不可欠です。
労務管理の効率化につながる
みなし残業代を活用することで、労務管理を効率化できる場合があります。項目 導入前 導入後 残業時間の把握 従業員ごとに正確な残業時間を把握する必要あり みなし残業時間内であれば、残業時間の把握は簡略化可能 残業代の計算 従業員ごとに時間外労働時間に基づいて残業代を計算 固定残業代として支給するため、計算が簡略化 給与計算 残業時間に応じて変動する残業代を計算し、給与に加算 固定残業代を給与に加算 労務トラブル 残業時間の記録や残業代の計算を巡るトラブルが発生する可能性あり みなし残業の範囲内であれば、残業時間や残業代に関するトラブルリスクを軽減
たとえば従業員ごとに日々変動する残業時間を正確に記録・集計し、残業代を計算する作業は煩雑になりがちです。みなし残業代を活用すれば、あらかじめ定めた時間数の残業代を固定額として支払うため、個々の残業時間管理の手間を省き、給与計算や勤怠管理を簡素化できます。
その結果、労務担当者は本来の業務に集中できるようになり、労務管理にかかるコストを削減できます。ただし、固定残業時間を超えた分の残業が発生した場合には、別途残業代を計算・支給する必要があり、労務管理の手間が逆に増加する可能性にも注意が必要です。求人時にアピールできる
みなし残業代制度は、求人の際にもメリットとなります。
特に従業員の残業時間が多く、固定残業時間を頻繁に超えるような業種や職種では、みなし残業代が本来の残業時間分の割増賃金よりも高額になる場合があり、応募者にとって魅力的な条件となる可能性があります。メリット 説明 給与の安定性 みなし残業代は毎月固定額で支払われるため、残業時間の変動に関わらず一定の収入が確保されます。 ワークライフバランス 労働時間管理を適切に行うことで、プライベートの時間を確保しやすくなります。 キャリアアップ 経験やスキルに応じて、みなし残業代を含む給与額が増加する可能性があります。
求人票には、固定残業代として支給する金額と、それに含まれる残業時間数を明記する必要があります。たとえば「月給30万円(固定残業代5万円/30時間分を含む)」のように記載します。
また、固定残業時間を超えた分の残業代は別途支給することを明記することで、応募者の不安を解消し、企業の透明性をアピールできます。たとえば「固定残業時間を超えた場合は、別途割増賃金を支給します」のように記載するとよいでしょう。これらの情報を明確に提示することで、求職者にとって魅力的な求人となり、優秀な人材の確保につながる可能性が高まります。
なお、固定残業代が実際の残業時間に見合わない低額である場合や、固定残業時間を大幅に超える残業が常態化している場合は、応募者から敬遠される可能性があるため、適切な設定が重要です。みなし残業代(固定残業代)を導入するデメリット
続いて、みなし残業代(固定残業代)制度を導入するデメリットについても確認しておきましょう。- 従業員のモチベーション低下
- 賃金計算が複雑になる
- トラブルが発生するリスクがある
従業員のモチベーション低下
みなし残業代では、残業の有無に関わらず一定額が支給されるため、残業が少ない従業員にとってはメリットとなります。しかし、実際に多くの残業をしている従業員にとっては、残業に見合った賃金が支払われないため、モチベーションの低下につながる可能性があります。メリットになりやすい人 デメリットになりやすい人 残業が少ない人 残業が多い人 定時で退社することが多い人 遅い時間まで働くことが多い人
以下のようなケースでは特に注意が必要です。- 固定残業時間を大幅に超える残業が常態化している
- 固定残業代が実際の残業時間に見合っていない
- 他の従業員と比較して、業務量や責任が大きい
このような状況では、従業員は不公平感や不満を感じ、仕事への意欲を失ってしまう可能性があります。結果として、離職率の増加や生産性の低下につながる可能性も懸念されます。
従業員のモチベーションを維持するためには、みなし残業代制度の導入に際して、従業員への丁寧な説明や、実際の残業時間の実態把握、固定残業代の見直しなどを定期的に行うことが重要です。賃金計算が複雑になる
みなし残業代のしくみを導入すると、賃金計算が複雑になることがあります。基本給と固定残業代を分けて管理する必要があるため、通常の残業代計算よりも煩雑になるケースがあります。賃金項目 通常の残業代計算 みなし残業代計算 基本給 ○ ○ 残業代 実績に応じて計算 固定残業代として支給 みなし残業代 - ○ 深夜残業代 実績に応じて計算 実績に応じて計算(固定残業代に含まれない部分) 休日労働の割増賃金 実績に応じて計算 実績に応じて計算(固定残業代に含まれない部分)
上記のように、みなし残業代を活用する場合、深夜残業や休日出勤が発生した際には、固定残業代に含まれていない超過時間分を別途計算する必要があります。また、固定残業代に含まれる手当(たとえば、役職手当など)を適切に設定する必要があり、その設定方法によっては賃金計算が複雑になる可能性があります。
さらに、退職時の精算においても、固定残業代に含まれる残業時間数と実際に働いた残業時間数との差額を調整する必要があり、計算ミスが生じやすい点にも注意が必要です。これらの複雑さから給与計算システムの変更が必要になる場合もあり、導入コストが増加する可能性も考慮しなければなりません。
トラブルが発生するリスクがある
みなし残業代制度を導入すると、さまざまなトラブルが発生するリスクがあります。主なトラブル例は以下のとおりです。トラブルの内容 説明 固定残業代が実際の残業時間に見合っていない 固定残業時間が短すぎる、または長すぎる場合に起こるトラブルです。従業員が過剰な残業を強いられる、または残業が少ないため給与が減ってしまうなどの問題が発生する可能性があります。 固定残業代に基本給が含まれているとみなされる 固定残業代が基本給と明確に区別されていない場合、固定残業代が基本給の一部とみなされ、違法となる可能性があります。 労使協定の内容が不適切 労使協定の内容が法律に合致していない場合、無効と判断される可能性があります。たとえば固定残業代に含めるべき手当が適切に定められていない、固定残業時間が不適切なほど長いなどのケースが該当します。 従業員のモチベーション低下 みなし残業代制度を導入すると、残業をしても追加の残業代が支払われないため、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。
これらのトラブルを避けるためには、みなし残業代に関する法律を正しく理解し、適切な設定と運用を行うことが重要です。具体的には、労使協定の内容を明確にする、固定残業時間を適切に設定する、従業員への説明を丁寧に行うなどの対策が必要です。
みなし残業代の違法性と注意点
みなし残業代は、正しく設定・運用しなければ違法となる可能性があります。トラブルを避けるためにも、適法な条件やよくある違法事例、労働時間管理の重要性などを理解しておきましょう。みなし残業代の条件
みなし残業代を導入しても法的に問題がないようにするためには、いくつかの条件を満たす必要があります。これらの条件を満たしていない場合、違法と判断され、未払い残業代の支払いを命じられる可能性があります。
適法な条件は以下の3点です。
1. 労使協定を締結していること
2. 実際に残業した時間とみなし残業時間が近似していること
3. 固定残業代として支払われた金額が、通常の残業代計算で算出される金額を上回っていること労使協定を締結していること
みなし残業代を導入するためには、労使協定を締結することが必須です。口約束だけでは無効となるため、必ず書面で締結しましょう。
労使協定には、以下の内容を記載する必要があります。- 対象となる労働者
- みなし残業時間数
- みなし残業代として支払う金額
- 固定残業代に含む手当
- 算定方法
項目 内容 締結の主体 労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者と使用者 締結時期 導入前 書面の交付 労働者へ交付
締結にあたっては、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者を選出し、合意を得る必要があります。労使協定は就業規則の一部として定めることも、別途作成することも可能です。また、一度締結したら終わりではなく、定期的な見直しが必要です。法律の改正や会社の状況変化に合わせて、必要に応じて改定を行いましょう。
締結した労使協定の内容は、労働者へ周知徹底することが重要です。給与明細にも、固定残業代の金額と時間数を明記することで、透明性を確保し、トラブルを未然に防ぎましょう。実際に残業した時間とみなし残業時間が近似していること
みなし残業代を適法に運用するためには、設定したみなし残業時間と従業員の実際の残業時間との間に著しい乖離がないようにする必要があります。
仮に、みなし残業時間として月30時間を設定しているにもかかわらず、従業員の実際の残業時間が月10時間や月60時間など、みなし残業時間と著しく乖離がある場合、そのみなし残業代は違法と判断される可能性が高くなります。状況 違法となる可能性 みなし残業時間:30時間
実際の残業時間:10時間 高 みなし残業時間:30時間
実際の残業時間:30時間 低 みなし残業時間:30時間
実際の残業時間:60時間 高
なぜなら、みなし残業の制度趣旨は、労使間で一定時間分の残業代をあらかじめ賃金に含めておくことで、残業代の計算を簡略化することにあります。しかし、実際の残業時間とみなし残業時間との乖離が大きい場合、この制度趣旨に反することになるためです。
したがって、適法なみなし残業代とするためには、設定するみなし残業時間数の算定根拠を明確にし、かつ、従業員の実際の残業時間を適切に管理する必要があります。また、定期的に見直しを行い、実態に合わない場合はみなし残業時間数を変更するなどの対応が必要です。みなし残業代(固定残業代)として支払われた金額が通常の残業代計算で算出される金額を上回っていること
みなし残業代が適法であるためには、固定残業代として支払われた金額が、通常の残業代計算で算出される金額を上回っている必要があります。
通常の残業代は、労働基準法で定められた計算式に基づいて算出します。項目 計算式 基本給 所定内給与÷所定労働時間 残業手当 基本給×1.25×残業時間
たとえば月給20万円で所定労働時間が160時間、残業時間が20時間の場合、残業手当は以下のようになります。(200,000円 ÷ 160時間) × 1.25 × 20時間 = 31,250円つまりこのケースでは、固定残業代が31,250円以上でなければ、適法なみなし残業代とは認められません。固定残業代が通常の残業代を下回る場合には、不足分を支払う必要があります。また、固定残業時間を超えて残業した場合にも、別途残業代を支払わなければなりません。
この条件を満たしていない場合、みなし残業は無効となり、会社は従業員に不足分の残業代を支払う義務が生じます。最悪の場合、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性もあります。みなし残業代の計算方法と設定方法
みなし残業代を正しく設定するには、計算方法を理解することが重要です。ここでは、算定の基礎となる賃金や残業時間数の設定根拠など、具体的な計算方法と設定方法を解説します。算定基礎となる賃金
みなし残業代の算定基礎となる賃金は、労働基準法で定められた「算定基礎賃金」をもとに計算します。算定基礎賃金には、基本給に加えて、以下のような諸手当を含める必要があります。含まれる手当 含まれない手当 役職手当 通勤手当 資格手当 家族手当 精勤手当 住宅手当 地域手当 別居手当
ただし業績によって変動する賞与や歩合給は算定基礎賃金には含まれません。
具体例として基本給20万円、役職手当3万円、資格手当1万円、精勤手当1万円の社員の場合、算定基礎賃金は25万円(20万円+3万円+1万円+1万円)となります。
算定基礎賃金をもとに、所定労働時間や想定される残業時間数を考慮して、みなし残業代を計算します。この算定基礎賃金を誤ると、違法な残業代計算になってしまう可能性があります。そのため、どのような手当を含めるべきか、法律に則って正しく理解することが重要です。
また算定基礎賃金は、昇給や手当の変更によって変動する可能性があります。そのため、定期的に見直しを行い、適切な金額でみなし残業代が計算されているか確認する必要があります。残業時間数の設定根拠
みなし残業時間を設定する際は、客観的な根拠に基づいて算定する必要があります。過去の残業時間の実績や、従業員の業務内容・職種などを考慮し、妥当な時間数を設定しましょう。
設定根拠を明確にすることで、後々のトラブルを回避できます。例えば、下記のような方法で根拠を明確化できます。- 過去1年間の残業時間の平均値
- 同職種の平均残業時間
- 業務内容に基づいた時間の見積もり
設定方法 メリット デメリット 過去1年間の残業時間の平均値 実績に基づいているため、客観的 過去の状況が反映されるため、今後の変化に対応できない可能性がある 同職種の平均残業時間 同程度の業務量の従業員との比較が可能 個々の従業員の状況を反映できない可能性がある 業務内容に基づいた時間の見積もり 今後の状況を予測できる 見積もりが難しい場合がある
いずれの方法を採用する場合でも、定期的な見直しが必要です。業務内容や労働時間の変化に合わせて、みなし残業時間数も適切に見直すようにしましょう。
根拠が不明確だったり、過大な残業時間数が設定されていたりする場合は、違法と判断される可能性があります。常に適法性を意識し、従業員との合意に基づいて設定することが重要です。固定残業代に含めるべき手当
みなし残業時間を設定する際には、過去の残業実績に基づいて、客観的かつ合理的な根拠が必要です。設定根拠 説明 過去の残業実績 過去数ヶ月間の実際の残業時間の平均値などを参考にする 職種・職務内容 営業職など、残業が発生しやすい職種の場合は、その職種の平均的な残業時間を考慮する 同業他社の状況 同業他社の残業時間やみなし残業時間の状況を調査する 業務量 通常時の業務量に加えて、繁忙期等の業務量の変動も考慮する
設定根拠を明確にすることで、のちのちのトラブルを回避できます。
たとえば過去の残業実績を根拠とする場合、直近3ヶ月~6ヶ月間のデータを用いるのが一般的です。また、繁忙期など突発的に残業時間が増える可能性も考慮し、余裕を持った時間数を設定することが重要です。
ただしあまりにも実態とかけ離れた時間数を設定すると、違法となる可能性があります。設定根拠を文書化し、労使協定に明記することで、透明性を確保しましょう。見直し時期と方法
みなし残業代の適切な運用のためには、定期的な見直しが必要です。
見直しのタイミングとしては、下記のような場合が考えられます。- 会社の業績が大きく変動した場合
- 法改正があった場合
- 従業員の業務内容が変更になった場合
- 労働時間管理システムを導入した場合
見直し項目 確認事項 算定基礎となる賃金 昇給や昇格により基本給に変更がないか 残業時間数 実際の残業時間数と乖離がないか 固定残業代に含める手当 各種手当の変更がないか
見直しの場合、労使協定を締結し直す必要があります。従業員代表と十分に話し合い、納得を得たうえで変更を行うことが重要です。また、変更内容を就業規則に反映させることも必要です。
見直しによって、みなし残業代が減額される場合は、従業員の同意を得ることが特に重要です。減額によって従業員のモチベーションが低下する可能性があるため、丁寧に説明し、理解を求める必要があります。
また、減額の理由を明確に示すことも重要です。たとえば業務効率化によって残業時間が減少した場合などは、その旨を説明することで、従業員の納得を得やすくなります。
適切な見直しを行うことで、みなし残業代に関するトラブルを未然に防ぎ、労使間の信頼関係を維持できます。
みなし残業代の設定は、定期的に見直す必要があります。見直しの時期は、会社の業績や従業員の労働状況の変化に応じて、適切な時期を設定することが重要です。見直しの際には、労使間で十分に協議を行い、合意形成を図ることが大切です。みなし残業代に関するトラブル事例とQ&A
みなし残業代に関するトラブルは、設定方法や運用方法を誤ると発生します。よくあるトラブル事例とQ&Aをまとめましたので、トラブルを未然に防ぐためにご確認ください。固定残業時間を超えた場合の残業代未払い
みなし残業代(固定残業代)には、あらかじめ決められた一定時間分の残業代が含まれています。しかし、実際の残業時間がこの固定残業時間を超えた場合はどうなるのでしょうか?状況 残業代の支払い 実際の残業時間 ≦ 固定残業時間 固定残業代のみ 実際の残業時間 > 固定残業時間 固定残業代 + 超過分の残業代
固定残業時間を超えた分の残業代は、別途支給しなければなりません。これを怠ると残業代未払いに該当し、違法となります。
たとえば月40時間分の固定残業代が給与に含まれているとします。しかし、実際に60時間残業した場合、超過分の20時間については、改めて残業代を計算し、支給する必要があります。計算方法は、労働基準法で定められた残業割増賃金率(通常は1.25倍)に基づいて行います。
多くの企業で、この超過分の残業代の支払いが適切に行われていないケースが散見されます。従業員側も固定残業代として支払われているため、超過分の残業代が支払われていないことに気づかない場合もあります。
しかし固定残業時間を超えた分の残業代請求は、法律で認められています。もし固定残業時間を超えて残業したにもかかわらず、超過分の残業代が支払われていない場合、従業員は会社に請求する権利があります。退職時の清算ミス
退職時の精算は、みなし残業代に関するトラブルが発生しやすい場面です。特に注意が必要なのは、固定残業代に含まれる残業時間数と、実際に労働した残業時間数の差です。ケース 説明 みなし残業時間>実際の残業時間 固定残業代から実際の残業代を差し引いた額を返還請求される可能性があります。ただし、就業規則等で「返還請求しない」と明記されていれば返還義務はありません。 みなし残業時間<実際の残業時間 不足分の残業代が支払われるべきです。
よくあるミスとして、退職月に残業がなかった場合、固定残業代全額を支払わないケースが挙げられます。しかし、固定残業代は労働の対価として支払われるものですので、残業の有無に関わらず、その月の所定労働日数分については支払う必要があります。
また、年俸制を導入している企業で年俸額に残業代が含まれていると誤解し、退職時に残業代の精算をしないケースもみられます。年俸制であっても、固定残業代として支払われている部分とそうでない部分を明確に区分し、不足がある場合は残業代を支払う必要があります。退職時の清算ミスは、後にトラブルに発展する可能性があります。企業は、日頃から正確な労働時間管理を行い、退職時の精算方法を明確に定めておくことが重要です。そもそも固定残業代が適法ではない
みなし残業代(固定残業代)は、正しく設定・運用されなければ違法となる可能性があります。よくある違法事例の一つに、そもそも固定残業代制の導入要件を満たしていないケースが挙げられます。要件 内容 労使協定の締結 使用者と労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です。口頭での合意だけでは無効です。 業務の性質 業務の性質上、時間外労働の算定が難しい業務である必要があります。単に人件費を抑制する目的で導入することは認められません。 明確な固定残業時間 労使協定に、固定残業時間数と、それに対応する固定残業代が明確に定められている必要があります。 固定残業代が通常の残業代を上回ること 固定残業代として支払われる金額が、通常の残業代計算で算出される金額を下回ってはいけません。
上記要件を満たしていない場合、固定残業代は無効となり、実際に働いた時間外労働に対して、改めて残業代を支払う義務が生じます。たとえば、労使協定を締結せずに固定残業代を支払っていた場合や、固定残業時間が実際よりも著しく短い場合などが該当します。
固定残業代制を導入する際は、上記要件を満たしているか、専門家へ相談するなどして慎重に検討する必要があります。正しく運用して従業員との信頼関係を構築しようみなし残業代は、正しく運用されなければ、従業員のモチベーション低下や労使トラブルにつながりかねません。
企業は、法令遵守を徹底し、従業員との信頼関係を構築していくことが重要です。みなし残業代の導入は、メリット・デメリットを慎重に検討し、適切な運用を行うことで、企業と従業員の双方にとって有益なものとなります。注意点を踏まえ、健全な労務管理に努めましょう。
みなし残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。一般的に「固定残業代」とも呼ばれます。
毎月の給与額が一定額になるため、企業側にとっては人件費の管理がしやすくなります。従業員側にとっても、残業が少ない月でも一定額の残業代を受け取ることができるというメリットがあります。
項目 | みなし残業代(固定残業代) | みなし労働時間制 |
---|---|---|
意味 | あらかじめ給与に一定時間分の残業代を含めて支給する制度 | 実際に働いた時間にかかわらず、一定の時間を働いたものとみなす制度 |
対象となる時間 | 残業時間 | 所定労働時間+残業時間 |
給与への影響 | 残業代が給与に含まれている | みなし労働時間分の賃金が支払われる |
導入要件 | 労使協定の締結は必須ではない(ただし、就業規則への明示は必要) | 労使協定の締結が必須 |
労働時間管理 | 必要 | 原則として不要(ただし、健康確保措置として一定の管理は必要) |
みなし残業代は、あらかじめ給与に残業代を含めて支給する制度です。残業の有無にかかわらず、固定額の残業代が支払われます。一方、みなし労働時間制は、実際に働いた時間にかかわらず、一定の時間を働いたものとみなす制度です。たとえば1日8時間働いたものとみなす場合、実際の労働時間が8時間を超えても、8時間分の賃金しか支払われません。
このように、両者はまったく異なる制度です。混同しないように注意しましょう。
みなし残業代(固定残業代)のしくみを導入するメリットは以下のとおりです。
- 人件費の管理がしやすくなる
- 従業員の給与が安定する
- 労務管理の効率化につながる
- 求人時にアピールできる
人件費の管理がしやすくなる
みなし残業代を活用すると、毎月の残業時間に関わらず人件費が一定になるため、予算管理が容易になります。残業代の変動に左右されることなく、人件費を予測・コントロールできるため、経営の安定化に貢献します。
例えば、営業職など残業時間の変動が大きい職種の場合、みなし残業代を活用することで、人件費の予算超過リスクを軽減できます。
例えば、営業職など残業時間の変動が大きい職種の場合、みなし残業代を活用することで、人件費の予算超過リスクを軽減できます。
導入前 | 導入後 |
---|---|
残業時間に応じて人件費が変動 | 人件費が一定 |
予算管理が複雑 | 予算管理が容易 |
予想外の人件費増加のリスク | 人件費の予測・コントロールが可能 |
また、みなし残業代を活用することで、人事・労務担当者の業務負担も軽減されます。残業時間の集計や残業代の計算といった作業が簡素化されるため、他の業務に時間を充てることができます。
さらに、企業規模が拡大した場合でも、みなし残業代のしくみを導入することで、人件費の管理を効率的に行うことができます。従業員数が増加しても、人件費の変動要因が少なくなるため、安定した経営を維持しやすくなります。
従業員の給与が安定する
みなし残業代によって従業員の毎月の給与額が固定化されるため、給与の安定につながります。残業が少ない月でも一定額の残業代が支払われるため、収入の変動が少なくなり、生活設計を行いやすくなります。
メリット | 説明 |
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収入の予測可能性向上 | 毎月一定額の給与が保証されるため、収入を予測しやすくなります。 |
生活設計の安定化 | 収入の変動が少ないため、安定した生活設計を立てることができます。 |
モチベーションの維持 | 労働時間に関わらず一定の収入が得られるため、モチベーションの低下を防ぐ効果も期待できます。 |
特に以下のような従業員にとってはメリットがあります。
- 生活費の支出が一定額で、収入の変動を避けたい従業員
- 住宅ローンや教育ローンなど、毎月一定額の返済が必要な従業員
- 副業や兼業で収入を得ており、本業の収入を安定させたい従業員
このように、みなし残業代は従業員の生活の安定に貢献する側面も持っています。ただし、後述する「みなし残業代の違法性と注意点」で解説するように、適切な設定と運用が不可欠です。
労務管理の効率化につながる
みなし残業代を活用することで、労務管理を効率化できる場合があります。
項目 | 導入前 | 導入後 |
---|---|---|
残業時間の把握 | 従業員ごとに正確な残業時間を把握する必要あり | みなし残業時間内であれば、残業時間の把握は簡略化可能 |
残業代の計算 | 従業員ごとに時間外労働時間に基づいて残業代を計算 | 固定残業代として支給するため、計算が簡略化 |
給与計算 | 残業時間に応じて変動する残業代を計算し、給与に加算 | 固定残業代を給与に加算 |
労務トラブル | 残業時間の記録や残業代の計算を巡るトラブルが発生する可能性あり | みなし残業の範囲内であれば、残業時間や残業代に関するトラブルリスクを軽減 |
たとえば従業員ごとに日々変動する残業時間を正確に記録・集計し、残業代を計算する作業は煩雑になりがちです。みなし残業代を活用すれば、あらかじめ定めた時間数の残業代を固定額として支払うため、個々の残業時間管理の手間を省き、給与計算や勤怠管理を簡素化できます。
その結果、労務担当者は本来の業務に集中できるようになり、労務管理にかかるコストを削減できます。ただし、固定残業時間を超えた分の残業が発生した場合には、別途残業代を計算・支給する必要があり、労務管理の手間が逆に増加する可能性にも注意が必要です。
求人時にアピールできる
みなし残業代制度は、求人の際にもメリットとなります。
特に従業員の残業時間が多く、固定残業時間を頻繁に超えるような業種や職種では、みなし残業代が本来の残業時間分の割増賃金よりも高額になる場合があり、応募者にとって魅力的な条件となる可能性があります。
特に従業員の残業時間が多く、固定残業時間を頻繁に超えるような業種や職種では、みなし残業代が本来の残業時間分の割増賃金よりも高額になる場合があり、応募者にとって魅力的な条件となる可能性があります。
メリット | 説明 |
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給与の安定性 | みなし残業代は毎月固定額で支払われるため、残業時間の変動に関わらず一定の収入が確保されます。 |
ワークライフバランス | 労働時間管理を適切に行うことで、プライベートの時間を確保しやすくなります。 |
キャリアアップ | 経験やスキルに応じて、みなし残業代を含む給与額が増加する可能性があります。 |
求人票には、固定残業代として支給する金額と、それに含まれる残業時間数を明記する必要があります。たとえば「月給30万円(固定残業代5万円/30時間分を含む)」のように記載します。
また、固定残業時間を超えた分の残業代は別途支給することを明記することで、応募者の不安を解消し、企業の透明性をアピールできます。たとえば「固定残業時間を超えた場合は、別途割増賃金を支給します」のように記載するとよいでしょう。これらの情報を明確に提示することで、求職者にとって魅力的な求人となり、優秀な人材の確保につながる可能性が高まります。
なお、固定残業代が実際の残業時間に見合わない低額である場合や、固定残業時間を大幅に超える残業が常態化している場合は、応募者から敬遠される可能性があるため、適切な設定が重要です。
みなし残業代(固定残業代)を導入するデメリット
続いて、みなし残業代(固定残業代)制度を導入するデメリットについても確認しておきましょう。- 従業員のモチベーション低下
- 賃金計算が複雑になる
- トラブルが発生するリスクがある
従業員のモチベーション低下
みなし残業代では、残業の有無に関わらず一定額が支給されるため、残業が少ない従業員にとってはメリットとなります。しかし、実際に多くの残業をしている従業員にとっては、残業に見合った賃金が支払われないため、モチベーションの低下につながる可能性があります。メリットになりやすい人 デメリットになりやすい人 残業が少ない人 残業が多い人 定時で退社することが多い人 遅い時間まで働くことが多い人
以下のようなケースでは特に注意が必要です。- 固定残業時間を大幅に超える残業が常態化している
- 固定残業代が実際の残業時間に見合っていない
- 他の従業員と比較して、業務量や責任が大きい
このような状況では、従業員は不公平感や不満を感じ、仕事への意欲を失ってしまう可能性があります。結果として、離職率の増加や生産性の低下につながる可能性も懸念されます。
従業員のモチベーションを維持するためには、みなし残業代制度の導入に際して、従業員への丁寧な説明や、実際の残業時間の実態把握、固定残業代の見直しなどを定期的に行うことが重要です。賃金計算が複雑になる
みなし残業代のしくみを導入すると、賃金計算が複雑になることがあります。基本給と固定残業代を分けて管理する必要があるため、通常の残業代計算よりも煩雑になるケースがあります。賃金項目 通常の残業代計算 みなし残業代計算 基本給 ○ ○ 残業代 実績に応じて計算 固定残業代として支給 みなし残業代 - ○ 深夜残業代 実績に応じて計算 実績に応じて計算(固定残業代に含まれない部分) 休日労働の割増賃金 実績に応じて計算 実績に応じて計算(固定残業代に含まれない部分)
上記のように、みなし残業代を活用する場合、深夜残業や休日出勤が発生した際には、固定残業代に含まれていない超過時間分を別途計算する必要があります。また、固定残業代に含まれる手当(たとえば、役職手当など)を適切に設定する必要があり、その設定方法によっては賃金計算が複雑になる可能性があります。
さらに、退職時の精算においても、固定残業代に含まれる残業時間数と実際に働いた残業時間数との差額を調整する必要があり、計算ミスが生じやすい点にも注意が必要です。これらの複雑さから給与計算システムの変更が必要になる場合もあり、導入コストが増加する可能性も考慮しなければなりません。
トラブルが発生するリスクがある
みなし残業代制度を導入すると、さまざまなトラブルが発生するリスクがあります。主なトラブル例は以下のとおりです。トラブルの内容 説明 固定残業代が実際の残業時間に見合っていない 固定残業時間が短すぎる、または長すぎる場合に起こるトラブルです。従業員が過剰な残業を強いられる、または残業が少ないため給与が減ってしまうなどの問題が発生する可能性があります。 固定残業代に基本給が含まれているとみなされる 固定残業代が基本給と明確に区別されていない場合、固定残業代が基本給の一部とみなされ、違法となる可能性があります。 労使協定の内容が不適切 労使協定の内容が法律に合致していない場合、無効と判断される可能性があります。たとえば固定残業代に含めるべき手当が適切に定められていない、固定残業時間が不適切なほど長いなどのケースが該当します。 従業員のモチベーション低下 みなし残業代制度を導入すると、残業をしても追加の残業代が支払われないため、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。
これらのトラブルを避けるためには、みなし残業代に関する法律を正しく理解し、適切な設定と運用を行うことが重要です。具体的には、労使協定の内容を明確にする、固定残業時間を適切に設定する、従業員への説明を丁寧に行うなどの対策が必要です。
みなし残業代の違法性と注意点
みなし残業代は、正しく設定・運用しなければ違法となる可能性があります。トラブルを避けるためにも、適法な条件やよくある違法事例、労働時間管理の重要性などを理解しておきましょう。みなし残業代の条件
みなし残業代を導入しても法的に問題がないようにするためには、いくつかの条件を満たす必要があります。これらの条件を満たしていない場合、違法と判断され、未払い残業代の支払いを命じられる可能性があります。
適法な条件は以下の3点です。
1. 労使協定を締結していること
2. 実際に残業した時間とみなし残業時間が近似していること
3. 固定残業代として支払われた金額が、通常の残業代計算で算出される金額を上回っていること労使協定を締結していること
みなし残業代を導入するためには、労使協定を締結することが必須です。口約束だけでは無効となるため、必ず書面で締結しましょう。
労使協定には、以下の内容を記載する必要があります。- 対象となる労働者
- みなし残業時間数
- みなし残業代として支払う金額
- 固定残業代に含む手当
- 算定方法
項目 内容 締結の主体 労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者と使用者 締結時期 導入前 書面の交付 労働者へ交付
締結にあたっては、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者を選出し、合意を得る必要があります。労使協定は就業規則の一部として定めることも、別途作成することも可能です。また、一度締結したら終わりではなく、定期的な見直しが必要です。法律の改正や会社の状況変化に合わせて、必要に応じて改定を行いましょう。
締結した労使協定の内容は、労働者へ周知徹底することが重要です。給与明細にも、固定残業代の金額と時間数を明記することで、透明性を確保し、トラブルを未然に防ぎましょう。実際に残業した時間とみなし残業時間が近似していること
みなし残業代を適法に運用するためには、設定したみなし残業時間と従業員の実際の残業時間との間に著しい乖離がないようにする必要があります。
仮に、みなし残業時間として月30時間を設定しているにもかかわらず、従業員の実際の残業時間が月10時間や月60時間など、みなし残業時間と著しく乖離がある場合、そのみなし残業代は違法と判断される可能性が高くなります。状況 違法となる可能性 みなし残業時間:30時間
実際の残業時間:10時間 高 みなし残業時間:30時間
実際の残業時間:30時間 低 みなし残業時間:30時間
実際の残業時間:60時間 高
なぜなら、みなし残業の制度趣旨は、労使間で一定時間分の残業代をあらかじめ賃金に含めておくことで、残業代の計算を簡略化することにあります。しかし、実際の残業時間とみなし残業時間との乖離が大きい場合、この制度趣旨に反することになるためです。
したがって、適法なみなし残業代とするためには、設定するみなし残業時間数の算定根拠を明確にし、かつ、従業員の実際の残業時間を適切に管理する必要があります。また、定期的に見直しを行い、実態に合わない場合はみなし残業時間数を変更するなどの対応が必要です。みなし残業代(固定残業代)として支払われた金額が通常の残業代計算で算出される金額を上回っていること
みなし残業代が適法であるためには、固定残業代として支払われた金額が、通常の残業代計算で算出される金額を上回っている必要があります。
通常の残業代は、労働基準法で定められた計算式に基づいて算出します。項目 計算式 基本給 所定内給与÷所定労働時間 残業手当 基本給×1.25×残業時間
たとえば月給20万円で所定労働時間が160時間、残業時間が20時間の場合、残業手当は以下のようになります。(200,000円 ÷ 160時間) × 1.25 × 20時間 = 31,250円つまりこのケースでは、固定残業代が31,250円以上でなければ、適法なみなし残業代とは認められません。固定残業代が通常の残業代を下回る場合には、不足分を支払う必要があります。また、固定残業時間を超えて残業した場合にも、別途残業代を支払わなければなりません。
この条件を満たしていない場合、みなし残業は無効となり、会社は従業員に不足分の残業代を支払う義務が生じます。最悪の場合、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性もあります。みなし残業代の計算方法と設定方法
みなし残業代を正しく設定するには、計算方法を理解することが重要です。ここでは、算定の基礎となる賃金や残業時間数の設定根拠など、具体的な計算方法と設定方法を解説します。算定基礎となる賃金
みなし残業代の算定基礎となる賃金は、労働基準法で定められた「算定基礎賃金」をもとに計算します。算定基礎賃金には、基本給に加えて、以下のような諸手当を含める必要があります。含まれる手当 含まれない手当 役職手当 通勤手当 資格手当 家族手当 精勤手当 住宅手当 地域手当 別居手当
ただし業績によって変動する賞与や歩合給は算定基礎賃金には含まれません。
具体例として基本給20万円、役職手当3万円、資格手当1万円、精勤手当1万円の社員の場合、算定基礎賃金は25万円(20万円+3万円+1万円+1万円)となります。
算定基礎賃金をもとに、所定労働時間や想定される残業時間数を考慮して、みなし残業代を計算します。この算定基礎賃金を誤ると、違法な残業代計算になってしまう可能性があります。そのため、どのような手当を含めるべきか、法律に則って正しく理解することが重要です。
また算定基礎賃金は、昇給や手当の変更によって変動する可能性があります。そのため、定期的に見直しを行い、適切な金額でみなし残業代が計算されているか確認する必要があります。残業時間数の設定根拠
みなし残業時間を設定する際は、客観的な根拠に基づいて算定する必要があります。過去の残業時間の実績や、従業員の業務内容・職種などを考慮し、妥当な時間数を設定しましょう。
設定根拠を明確にすることで、後々のトラブルを回避できます。例えば、下記のような方法で根拠を明確化できます。- 過去1年間の残業時間の平均値
- 同職種の平均残業時間
- 業務内容に基づいた時間の見積もり
設定方法 メリット デメリット 過去1年間の残業時間の平均値 実績に基づいているため、客観的 過去の状況が反映されるため、今後の変化に対応できない可能性がある 同職種の平均残業時間 同程度の業務量の従業員との比較が可能 個々の従業員の状況を反映できない可能性がある 業務内容に基づいた時間の見積もり 今後の状況を予測できる 見積もりが難しい場合がある
いずれの方法を採用する場合でも、定期的な見直しが必要です。業務内容や労働時間の変化に合わせて、みなし残業時間数も適切に見直すようにしましょう。
根拠が不明確だったり、過大な残業時間数が設定されていたりする場合は、違法と判断される可能性があります。常に適法性を意識し、従業員との合意に基づいて設定することが重要です。固定残業代に含めるべき手当
みなし残業時間を設定する際には、過去の残業実績に基づいて、客観的かつ合理的な根拠が必要です。設定根拠 説明 過去の残業実績 過去数ヶ月間の実際の残業時間の平均値などを参考にする 職種・職務内容 営業職など、残業が発生しやすい職種の場合は、その職種の平均的な残業時間を考慮する 同業他社の状況 同業他社の残業時間やみなし残業時間の状況を調査する 業務量 通常時の業務量に加えて、繁忙期等の業務量の変動も考慮する
設定根拠を明確にすることで、のちのちのトラブルを回避できます。
たとえば過去の残業実績を根拠とする場合、直近3ヶ月~6ヶ月間のデータを用いるのが一般的です。また、繁忙期など突発的に残業時間が増える可能性も考慮し、余裕を持った時間数を設定することが重要です。
ただしあまりにも実態とかけ離れた時間数を設定すると、違法となる可能性があります。設定根拠を文書化し、労使協定に明記することで、透明性を確保しましょう。見直し時期と方法
みなし残業代の適切な運用のためには、定期的な見直しが必要です。
見直しのタイミングとしては、下記のような場合が考えられます。- 会社の業績が大きく変動した場合
- 法改正があった場合
- 従業員の業務内容が変更になった場合
- 労働時間管理システムを導入した場合
見直し項目 確認事項 算定基礎となる賃金 昇給や昇格により基本給に変更がないか 残業時間数 実際の残業時間数と乖離がないか 固定残業代に含める手当 各種手当の変更がないか
見直しの場合、労使協定を締結し直す必要があります。従業員代表と十分に話し合い、納得を得たうえで変更を行うことが重要です。また、変更内容を就業規則に反映させることも必要です。
見直しによって、みなし残業代が減額される場合は、従業員の同意を得ることが特に重要です。減額によって従業員のモチベーションが低下する可能性があるため、丁寧に説明し、理解を求める必要があります。
また、減額の理由を明確に示すことも重要です。たとえば業務効率化によって残業時間が減少した場合などは、その旨を説明することで、従業員の納得を得やすくなります。
適切な見直しを行うことで、みなし残業代に関するトラブルを未然に防ぎ、労使間の信頼関係を維持できます。
みなし残業代の設定は、定期的に見直す必要があります。見直しの時期は、会社の業績や従業員の労働状況の変化に応じて、適切な時期を設定することが重要です。見直しの際には、労使間で十分に協議を行い、合意形成を図ることが大切です。みなし残業代に関するトラブル事例とQ&A
みなし残業代に関するトラブルは、設定方法や運用方法を誤ると発生します。よくあるトラブル事例とQ&Aをまとめましたので、トラブルを未然に防ぐためにご確認ください。固定残業時間を超えた場合の残業代未払い
みなし残業代(固定残業代)には、あらかじめ決められた一定時間分の残業代が含まれています。しかし、実際の残業時間がこの固定残業時間を超えた場合はどうなるのでしょうか?状況 残業代の支払い 実際の残業時間 ≦ 固定残業時間 固定残業代のみ 実際の残業時間 > 固定残業時間 固定残業代 + 超過分の残業代
固定残業時間を超えた分の残業代は、別途支給しなければなりません。これを怠ると残業代未払いに該当し、違法となります。
たとえば月40時間分の固定残業代が給与に含まれているとします。しかし、実際に60時間残業した場合、超過分の20時間については、改めて残業代を計算し、支給する必要があります。計算方法は、労働基準法で定められた残業割増賃金率(通常は1.25倍)に基づいて行います。
多くの企業で、この超過分の残業代の支払いが適切に行われていないケースが散見されます。従業員側も固定残業代として支払われているため、超過分の残業代が支払われていないことに気づかない場合もあります。
しかし固定残業時間を超えた分の残業代請求は、法律で認められています。もし固定残業時間を超えて残業したにもかかわらず、超過分の残業代が支払われていない場合、従業員は会社に請求する権利があります。退職時の清算ミス
退職時の精算は、みなし残業代に関するトラブルが発生しやすい場面です。特に注意が必要なのは、固定残業代に含まれる残業時間数と、実際に労働した残業時間数の差です。ケース 説明 みなし残業時間>実際の残業時間 固定残業代から実際の残業代を差し引いた額を返還請求される可能性があります。ただし、就業規則等で「返還請求しない」と明記されていれば返還義務はありません。 みなし残業時間<実際の残業時間 不足分の残業代が支払われるべきです。
よくあるミスとして、退職月に残業がなかった場合、固定残業代全額を支払わないケースが挙げられます。しかし、固定残業代は労働の対価として支払われるものですので、残業の有無に関わらず、その月の所定労働日数分については支払う必要があります。
また、年俸制を導入している企業で年俸額に残業代が含まれていると誤解し、退職時に残業代の精算をしないケースもみられます。年俸制であっても、固定残業代として支払われている部分とそうでない部分を明確に区分し、不足がある場合は残業代を支払う必要があります。退職時の清算ミスは、後にトラブルに発展する可能性があります。企業は、日頃から正確な労働時間管理を行い、退職時の精算方法を明確に定めておくことが重要です。そもそも固定残業代が適法ではない
みなし残業代(固定残業代)は、正しく設定・運用されなければ違法となる可能性があります。よくある違法事例の一つに、そもそも固定残業代制の導入要件を満たしていないケースが挙げられます。要件 内容 労使協定の締結 使用者と労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です。口頭での合意だけでは無効です。 業務の性質 業務の性質上、時間外労働の算定が難しい業務である必要があります。単に人件費を抑制する目的で導入することは認められません。 明確な固定残業時間 労使協定に、固定残業時間数と、それに対応する固定残業代が明確に定められている必要があります。 固定残業代が通常の残業代を上回ること 固定残業代として支払われる金額が、通常の残業代計算で算出される金額を下回ってはいけません。
上記要件を満たしていない場合、固定残業代は無効となり、実際に働いた時間外労働に対して、改めて残業代を支払う義務が生じます。たとえば、労使協定を締結せずに固定残業代を支払っていた場合や、固定残業時間が実際よりも著しく短い場合などが該当します。
固定残業代制を導入する際は、上記要件を満たしているか、専門家へ相談するなどして慎重に検討する必要があります。正しく運用して従業員との信頼関係を構築しようみなし残業代は、正しく運用されなければ、従業員のモチベーション低下や労使トラブルにつながりかねません。
企業は、法令遵守を徹底し、従業員との信頼関係を構築していくことが重要です。みなし残業代の導入は、メリット・デメリットを慎重に検討し、適切な運用を行うことで、企業と従業員の双方にとって有益なものとなります。注意点を踏まえ、健全な労務管理に努めましょう。
続いて、みなし残業代(固定残業代)制度を導入するデメリットについても確認しておきましょう。
メリットになりやすい人 | デメリットになりやすい人 |
---|---|
残業が少ない人 | 残業が多い人 |
定時で退社することが多い人 | 遅い時間まで働くことが多い人 |
以下のようなケースでは特に注意が必要です。
従業員のモチベーションを維持するためには、みなし残業代制度の導入に際して、従業員への丁寧な説明や、実際の残業時間の実態把握、固定残業代の見直しなどを定期的に行うことが重要です。
賃金項目 | 通常の残業代計算 | みなし残業代計算 |
---|---|---|
基本給 | ○ | ○ |
残業代 | 実績に応じて計算 | 固定残業代として支給 |
みなし残業代 | - | ○ |
深夜残業代 | 実績に応じて計算 | 実績に応じて計算(固定残業代に含まれない部分) |
休日労働の割増賃金 | 実績に応じて計算 | 実績に応じて計算(固定残業代に含まれない部分) |
上記のように、みなし残業代を活用する場合、深夜残業や休日出勤が発生した際には、固定残業代に含まれていない超過時間分を別途計算する必要があります。また、固定残業代に含まれる手当(たとえば、役職手当など)を適切に設定する必要があり、その設定方法によっては賃金計算が複雑になる可能性があります。
さらに、退職時の精算においても、固定残業代に含まれる残業時間数と実際に働いた残業時間数との差額を調整する必要があり、計算ミスが生じやすい点にも注意が必要です。これらの複雑さから給与計算システムの変更が必要になる場合もあり、導入コストが増加する可能性も考慮しなければなりません。
トラブルの内容 | 説明 |
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固定残業代が実際の残業時間に見合っていない | 固定残業時間が短すぎる、または長すぎる場合に起こるトラブルです。従業員が過剰な残業を強いられる、または残業が少ないため給与が減ってしまうなどの問題が発生する可能性があります。 |
固定残業代に基本給が含まれているとみなされる | 固定残業代が基本給と明確に区別されていない場合、固定残業代が基本給の一部とみなされ、違法となる可能性があります。 |
労使協定の内容が不適切 | 労使協定の内容が法律に合致していない場合、無効と判断される可能性があります。たとえば固定残業代に含めるべき手当が適切に定められていない、固定残業時間が不適切なほど長いなどのケースが該当します。 |
従業員のモチベーション低下 | みなし残業代制度を導入すると、残業をしても追加の残業代が支払われないため、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。 |
これらのトラブルを避けるためには、みなし残業代に関する法律を正しく理解し、適切な設定と運用を行うことが重要です。具体的には、労使協定の内容を明確にする、固定残業時間を適切に設定する、従業員への説明を丁寧に行うなどの対策が必要です。
みなし残業代は、正しく設定・運用しなければ違法となる可能性があります。トラブルを避けるためにも、適法な条件やよくある違法事例、労働時間管理の重要性などを理解しておきましょう。
みなし残業代の条件
みなし残業代を導入しても法的に問題がないようにするためには、いくつかの条件を満たす必要があります。これらの条件を満たしていない場合、違法と判断され、未払い残業代の支払いを命じられる可能性があります。
適法な条件は以下の3点です。
適法な条件は以下の3点です。
1. 労使協定を締結していること
2. 実際に残業した時間とみなし残業時間が近似していること
3. 固定残業代として支払われた金額が、通常の残業代計算で算出される金額を上回っていること
2. 実際に残業した時間とみなし残業時間が近似していること
3. 固定残業代として支払われた金額が、通常の残業代計算で算出される金額を上回っていること
労使協定を締結していること
みなし残業代を導入するためには、労使協定を締結することが必須です。口約束だけでは無効となるため、必ず書面で締結しましょう。
労使協定には、以下の内容を記載する必要があります。
労使協定には、以下の内容を記載する必要があります。
- 対象となる労働者
- みなし残業時間数
- みなし残業代として支払う金額
- 固定残業代に含む手当
- 算定方法
項目 | 内容 |
---|---|
締結の主体 | 労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者と使用者 |
締結時期 | 導入前 |
書面の交付 | 労働者へ交付 |
締結にあたっては、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者を選出し、合意を得る必要があります。労使協定は就業規則の一部として定めることも、別途作成することも可能です。また、一度締結したら終わりではなく、定期的な見直しが必要です。法律の改正や会社の状況変化に合わせて、必要に応じて改定を行いましょう。
締結した労使協定の内容は、労働者へ周知徹底することが重要です。給与明細にも、固定残業代の金額と時間数を明記することで、透明性を確保し、トラブルを未然に防ぎましょう。
実際に残業した時間とみなし残業時間が近似していること
みなし残業代を適法に運用するためには、設定したみなし残業時間と従業員の実際の残業時間との間に著しい乖離がないようにする必要があります。
仮に、みなし残業時間として月30時間を設定しているにもかかわらず、従業員の実際の残業時間が月10時間や月60時間など、みなし残業時間と著しく乖離がある場合、そのみなし残業代は違法と判断される可能性が高くなります。
仮に、みなし残業時間として月30時間を設定しているにもかかわらず、従業員の実際の残業時間が月10時間や月60時間など、みなし残業時間と著しく乖離がある場合、そのみなし残業代は違法と判断される可能性が高くなります。
状況 | 違法となる可能性 |
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みなし残業時間:30時間 実際の残業時間:10時間 | 高 |
みなし残業時間:30時間 実際の残業時間:30時間 | 低 |
みなし残業時間:30時間 実際の残業時間:60時間 | 高 |
なぜなら、みなし残業の制度趣旨は、労使間で一定時間分の残業代をあらかじめ賃金に含めておくことで、残業代の計算を簡略化することにあります。しかし、実際の残業時間とみなし残業時間との乖離が大きい場合、この制度趣旨に反することになるためです。
したがって、適法なみなし残業代とするためには、設定するみなし残業時間数の算定根拠を明確にし、かつ、従業員の実際の残業時間を適切に管理する必要があります。また、定期的に見直しを行い、実態に合わない場合はみなし残業時間数を変更するなどの対応が必要です。
みなし残業代(固定残業代)として支払われた金額が通常の残業代計算で算出される金額を上回っていること
みなし残業代が適法であるためには、固定残業代として支払われた金額が、通常の残業代計算で算出される金額を上回っている必要があります。
通常の残業代は、労働基準法で定められた計算式に基づいて算出します。
通常の残業代は、労働基準法で定められた計算式に基づいて算出します。
項目 | 計算式 |
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基本給 | 所定内給与÷所定労働時間 |
残業手当 | 基本給×1.25×残業時間 |
たとえば月給20万円で所定労働時間が160時間、残業時間が20時間の場合、残業手当は以下のようになります。
(200,000円 ÷ 160時間) × 1.25 × 20時間 = 31,250円
つまりこのケースでは、固定残業代が31,250円以上でなければ、適法なみなし残業代とは認められません。固定残業代が通常の残業代を下回る場合には、不足分を支払う必要があります。また、固定残業時間を超えて残業した場合にも、別途残業代を支払わなければなりません。
この条件を満たしていない場合、みなし残業は無効となり、会社は従業員に不足分の残業代を支払う義務が生じます。最悪の場合、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性もあります。
この条件を満たしていない場合、みなし残業は無効となり、会社は従業員に不足分の残業代を支払う義務が生じます。最悪の場合、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性もあります。
みなし残業代の計算方法と設定方法
みなし残業代を正しく設定するには、計算方法を理解することが重要です。ここでは、算定の基礎となる賃金や残業時間数の設定根拠など、具体的な計算方法と設定方法を解説します。算定基礎となる賃金
みなし残業代の算定基礎となる賃金は、労働基準法で定められた「算定基礎賃金」をもとに計算します。算定基礎賃金には、基本給に加えて、以下のような諸手当を含める必要があります。含まれる手当 含まれない手当 役職手当 通勤手当 資格手当 家族手当 精勤手当 住宅手当 地域手当 別居手当
ただし業績によって変動する賞与や歩合給は算定基礎賃金には含まれません。
具体例として基本給20万円、役職手当3万円、資格手当1万円、精勤手当1万円の社員の場合、算定基礎賃金は25万円(20万円+3万円+1万円+1万円)となります。
算定基礎賃金をもとに、所定労働時間や想定される残業時間数を考慮して、みなし残業代を計算します。この算定基礎賃金を誤ると、違法な残業代計算になってしまう可能性があります。そのため、どのような手当を含めるべきか、法律に則って正しく理解することが重要です。
また算定基礎賃金は、昇給や手当の変更によって変動する可能性があります。そのため、定期的に見直しを行い、適切な金額でみなし残業代が計算されているか確認する必要があります。残業時間数の設定根拠
みなし残業時間を設定する際は、客観的な根拠に基づいて算定する必要があります。過去の残業時間の実績や、従業員の業務内容・職種などを考慮し、妥当な時間数を設定しましょう。
設定根拠を明確にすることで、後々のトラブルを回避できます。例えば、下記のような方法で根拠を明確化できます。- 過去1年間の残業時間の平均値
- 同職種の平均残業時間
- 業務内容に基づいた時間の見積もり
設定方法 メリット デメリット 過去1年間の残業時間の平均値 実績に基づいているため、客観的 過去の状況が反映されるため、今後の変化に対応できない可能性がある 同職種の平均残業時間 同程度の業務量の従業員との比較が可能 個々の従業員の状況を反映できない可能性がある 業務内容に基づいた時間の見積もり 今後の状況を予測できる 見積もりが難しい場合がある
いずれの方法を採用する場合でも、定期的な見直しが必要です。業務内容や労働時間の変化に合わせて、みなし残業時間数も適切に見直すようにしましょう。
根拠が不明確だったり、過大な残業時間数が設定されていたりする場合は、違法と判断される可能性があります。常に適法性を意識し、従業員との合意に基づいて設定することが重要です。固定残業代に含めるべき手当
みなし残業時間を設定する際には、過去の残業実績に基づいて、客観的かつ合理的な根拠が必要です。設定根拠 説明 過去の残業実績 過去数ヶ月間の実際の残業時間の平均値などを参考にする 職種・職務内容 営業職など、残業が発生しやすい職種の場合は、その職種の平均的な残業時間を考慮する 同業他社の状況 同業他社の残業時間やみなし残業時間の状況を調査する 業務量 通常時の業務量に加えて、繁忙期等の業務量の変動も考慮する
設定根拠を明確にすることで、のちのちのトラブルを回避できます。
たとえば過去の残業実績を根拠とする場合、直近3ヶ月~6ヶ月間のデータを用いるのが一般的です。また、繁忙期など突発的に残業時間が増える可能性も考慮し、余裕を持った時間数を設定することが重要です。
ただしあまりにも実態とかけ離れた時間数を設定すると、違法となる可能性があります。設定根拠を文書化し、労使協定に明記することで、透明性を確保しましょう。見直し時期と方法
みなし残業代の適切な運用のためには、定期的な見直しが必要です。
見直しのタイミングとしては、下記のような場合が考えられます。- 会社の業績が大きく変動した場合
- 法改正があった場合
- 従業員の業務内容が変更になった場合
- 労働時間管理システムを導入した場合
見直し項目 確認事項 算定基礎となる賃金 昇給や昇格により基本給に変更がないか 残業時間数 実際の残業時間数と乖離がないか 固定残業代に含める手当 各種手当の変更がないか
見直しの場合、労使協定を締結し直す必要があります。従業員代表と十分に話し合い、納得を得たうえで変更を行うことが重要です。また、変更内容を就業規則に反映させることも必要です。
見直しによって、みなし残業代が減額される場合は、従業員の同意を得ることが特に重要です。減額によって従業員のモチベーションが低下する可能性があるため、丁寧に説明し、理解を求める必要があります。
また、減額の理由を明確に示すことも重要です。たとえば業務効率化によって残業時間が減少した場合などは、その旨を説明することで、従業員の納得を得やすくなります。
適切な見直しを行うことで、みなし残業代に関するトラブルを未然に防ぎ、労使間の信頼関係を維持できます。
みなし残業代の設定は、定期的に見直す必要があります。見直しの時期は、会社の業績や従業員の労働状況の変化に応じて、適切な時期を設定することが重要です。見直しの際には、労使間で十分に協議を行い、合意形成を図ることが大切です。みなし残業代に関するトラブル事例とQ&A
みなし残業代に関するトラブルは、設定方法や運用方法を誤ると発生します。よくあるトラブル事例とQ&Aをまとめましたので、トラブルを未然に防ぐためにご確認ください。固定残業時間を超えた場合の残業代未払い
みなし残業代(固定残業代)には、あらかじめ決められた一定時間分の残業代が含まれています。しかし、実際の残業時間がこの固定残業時間を超えた場合はどうなるのでしょうか?状況 残業代の支払い 実際の残業時間 ≦ 固定残業時間 固定残業代のみ 実際の残業時間 > 固定残業時間 固定残業代 + 超過分の残業代
固定残業時間を超えた分の残業代は、別途支給しなければなりません。これを怠ると残業代未払いに該当し、違法となります。
たとえば月40時間分の固定残業代が給与に含まれているとします。しかし、実際に60時間残業した場合、超過分の20時間については、改めて残業代を計算し、支給する必要があります。計算方法は、労働基準法で定められた残業割増賃金率(通常は1.25倍)に基づいて行います。
多くの企業で、この超過分の残業代の支払いが適切に行われていないケースが散見されます。従業員側も固定残業代として支払われているため、超過分の残業代が支払われていないことに気づかない場合もあります。
しかし固定残業時間を超えた分の残業代請求は、法律で認められています。もし固定残業時間を超えて残業したにもかかわらず、超過分の残業代が支払われていない場合、従業員は会社に請求する権利があります。退職時の清算ミス
退職時の精算は、みなし残業代に関するトラブルが発生しやすい場面です。特に注意が必要なのは、固定残業代に含まれる残業時間数と、実際に労働した残業時間数の差です。ケース 説明 みなし残業時間>実際の残業時間 固定残業代から実際の残業代を差し引いた額を返還請求される可能性があります。ただし、就業規則等で「返還請求しない」と明記されていれば返還義務はありません。 みなし残業時間<実際の残業時間 不足分の残業代が支払われるべきです。
よくあるミスとして、退職月に残業がなかった場合、固定残業代全額を支払わないケースが挙げられます。しかし、固定残業代は労働の対価として支払われるものですので、残業の有無に関わらず、その月の所定労働日数分については支払う必要があります。
また、年俸制を導入している企業で年俸額に残業代が含まれていると誤解し、退職時に残業代の精算をしないケースもみられます。年俸制であっても、固定残業代として支払われている部分とそうでない部分を明確に区分し、不足がある場合は残業代を支払う必要があります。退職時の清算ミスは、後にトラブルに発展する可能性があります。企業は、日頃から正確な労働時間管理を行い、退職時の精算方法を明確に定めておくことが重要です。そもそも固定残業代が適法ではない
みなし残業代(固定残業代)は、正しく設定・運用されなければ違法となる可能性があります。よくある違法事例の一つに、そもそも固定残業代制の導入要件を満たしていないケースが挙げられます。要件 内容 労使協定の締結 使用者と労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です。口頭での合意だけでは無効です。 業務の性質 業務の性質上、時間外労働の算定が難しい業務である必要があります。単に人件費を抑制する目的で導入することは認められません。 明確な固定残業時間 労使協定に、固定残業時間数と、それに対応する固定残業代が明確に定められている必要があります。 固定残業代が通常の残業代を上回ること 固定残業代として支払われる金額が、通常の残業代計算で算出される金額を下回ってはいけません。
上記要件を満たしていない場合、固定残業代は無効となり、実際に働いた時間外労働に対して、改めて残業代を支払う義務が生じます。たとえば、労使協定を締結せずに固定残業代を支払っていた場合や、固定残業時間が実際よりも著しく短い場合などが該当します。
固定残業代制を導入する際は、上記要件を満たしているか、専門家へ相談するなどして慎重に検討する必要があります。正しく運用して従業員との信頼関係を構築しようみなし残業代は、正しく運用されなければ、従業員のモチベーション低下や労使トラブルにつながりかねません。
企業は、法令遵守を徹底し、従業員との信頼関係を構築していくことが重要です。みなし残業代の導入は、メリット・デメリットを慎重に検討し、適切な運用を行うことで、企業と従業員の双方にとって有益なものとなります。注意点を踏まえ、健全な労務管理に努めましょう。
みなし残業代を正しく設定するには、計算方法を理解することが重要です。ここでは、算定の基礎となる賃金や残業時間数の設定根拠など、具体的な計算方法と設定方法を解説します。
含まれる手当 | 含まれない手当 |
---|---|
役職手当 | 通勤手当 |
資格手当 | 家族手当 |
精勤手当 | 住宅手当 |
地域手当 | 別居手当 |
ただし業績によって変動する賞与や歩合給は算定基礎賃金には含まれません。
具体例として基本給20万円、役職手当3万円、資格手当1万円、精勤手当1万円の社員の場合、算定基礎賃金は25万円(20万円+3万円+1万円+1万円)となります。
算定基礎賃金をもとに、所定労働時間や想定される残業時間数を考慮して、みなし残業代を計算します。この算定基礎賃金を誤ると、違法な残業代計算になってしまう可能性があります。そのため、どのような手当を含めるべきか、法律に則って正しく理解することが重要です。
また算定基礎賃金は、昇給や手当の変更によって変動する可能性があります。そのため、定期的に見直しを行い、適切な金額でみなし残業代が計算されているか確認する必要があります。
設定根拠を明確にすることで、後々のトラブルを回避できます。例えば、下記のような方法で根拠を明確化できます。
設定方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
過去1年間の残業時間の平均値 | 実績に基づいているため、客観的 | 過去の状況が反映されるため、今後の変化に対応できない可能性がある |
同職種の平均残業時間 | 同程度の業務量の従業員との比較が可能 | 個々の従業員の状況を反映できない可能性がある |
業務内容に基づいた時間の見積もり | 今後の状況を予測できる | 見積もりが難しい場合がある |
いずれの方法を採用する場合でも、定期的な見直しが必要です。業務内容や労働時間の変化に合わせて、みなし残業時間数も適切に見直すようにしましょう。
根拠が不明確だったり、過大な残業時間数が設定されていたりする場合は、違法と判断される可能性があります。常に適法性を意識し、従業員との合意に基づいて設定することが重要です。
設定根拠 | 説明 |
---|---|
過去の残業実績 | 過去数ヶ月間の実際の残業時間の平均値などを参考にする |
職種・職務内容 | 営業職など、残業が発生しやすい職種の場合は、その職種の平均的な残業時間を考慮する |
同業他社の状況 | 同業他社の残業時間やみなし残業時間の状況を調査する |
業務量 | 通常時の業務量に加えて、繁忙期等の業務量の変動も考慮する |
設定根拠を明確にすることで、のちのちのトラブルを回避できます。
たとえば過去の残業実績を根拠とする場合、直近3ヶ月~6ヶ月間のデータを用いるのが一般的です。また、繁忙期など突発的に残業時間が増える可能性も考慮し、余裕を持った時間数を設定することが重要です。
ただしあまりにも実態とかけ離れた時間数を設定すると、違法となる可能性があります。設定根拠を文書化し、労使協定に明記することで、透明性を確保しましょう。
見直しのタイミングとしては、下記のような場合が考えられます。
見直し項目 | 確認事項 |
---|---|
算定基礎となる賃金 | 昇給や昇格により基本給に変更がないか |
残業時間数 | 実際の残業時間数と乖離がないか |
固定残業代に含める手当 | 各種手当の変更がないか |
見直しの場合、労使協定を締結し直す必要があります。従業員代表と十分に話し合い、納得を得たうえで変更を行うことが重要です。また、変更内容を就業規則に反映させることも必要です。
見直しによって、みなし残業代が減額される場合は、従業員の同意を得ることが特に重要です。減額によって従業員のモチベーションが低下する可能性があるため、丁寧に説明し、理解を求める必要があります。
また、減額の理由を明確に示すことも重要です。たとえば業務効率化によって残業時間が減少した場合などは、その旨を説明することで、従業員の納得を得やすくなります。
適切な見直しを行うことで、みなし残業代に関するトラブルを未然に防ぎ、労使間の信頼関係を維持できます。
みなし残業代の設定は、定期的に見直す必要があります。見直しの時期は、会社の業績や従業員の労働状況の変化に応じて、適切な時期を設定することが重要です。見直しの際には、労使間で十分に協議を行い、合意形成を図ることが大切です。
みなし残業代に関するトラブルは、設定方法や運用方法を誤ると発生します。よくあるトラブル事例とQ&Aをまとめましたので、トラブルを未然に防ぐためにご確認ください。
固定残業時間を超えた場合の残業代未払い
みなし残業代(固定残業代)には、あらかじめ決められた一定時間分の残業代が含まれています。しかし、実際の残業時間がこの固定残業時間を超えた場合はどうなるのでしょうか?
状況 | 残業代の支払い |
---|---|
実際の残業時間 ≦ 固定残業時間 | 固定残業代のみ |
実際の残業時間 > 固定残業時間 | 固定残業代 + 超過分の残業代 |
固定残業時間を超えた分の残業代は、別途支給しなければなりません。これを怠ると残業代未払いに該当し、違法となります。
たとえば月40時間分の固定残業代が給与に含まれているとします。しかし、実際に60時間残業した場合、超過分の20時間については、改めて残業代を計算し、支給する必要があります。計算方法は、労働基準法で定められた残業割増賃金率(通常は1.25倍)に基づいて行います。
多くの企業で、この超過分の残業代の支払いが適切に行われていないケースが散見されます。従業員側も固定残業代として支払われているため、超過分の残業代が支払われていないことに気づかない場合もあります。
しかし固定残業時間を超えた分の残業代請求は、法律で認められています。もし固定残業時間を超えて残業したにもかかわらず、超過分の残業代が支払われていない場合、従業員は会社に請求する権利があります。
退職時の清算ミス
退職時の精算は、みなし残業代に関するトラブルが発生しやすい場面です。特に注意が必要なのは、固定残業代に含まれる残業時間数と、実際に労働した残業時間数の差です。
ケース | 説明 |
---|---|
みなし残業時間>実際の残業時間 | 固定残業代から実際の残業代を差し引いた額を返還請求される可能性があります。ただし、就業規則等で「返還請求しない」と明記されていれば返還義務はありません。 |
みなし残業時間<実際の残業時間 | 不足分の残業代が支払われるべきです。 |
よくあるミスとして、退職月に残業がなかった場合、固定残業代全額を支払わないケースが挙げられます。しかし、固定残業代は労働の対価として支払われるものですので、残業の有無に関わらず、その月の所定労働日数分については支払う必要があります。
また、年俸制を導入している企業で年俸額に残業代が含まれていると誤解し、退職時に残業代の精算をしないケースもみられます。年俸制であっても、固定残業代として支払われている部分とそうでない部分を明確に区分し、不足がある場合は残業代を支払う必要があります。退職時の清算ミスは、後にトラブルに発展する可能性があります。企業は、日頃から正確な労働時間管理を行い、退職時の精算方法を明確に定めておくことが重要です。
そもそも固定残業代が適法ではない
みなし残業代(固定残業代)は、正しく設定・運用されなければ違法となる可能性があります。よくある違法事例の一つに、そもそも固定残業代制の導入要件を満たしていないケースが挙げられます。
要件 | 内容 |
---|---|
労使協定の締結 | 使用者と労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です。口頭での合意だけでは無効です。 |
業務の性質 | 業務の性質上、時間外労働の算定が難しい業務である必要があります。単に人件費を抑制する目的で導入することは認められません。 |
明確な固定残業時間 | 労使協定に、固定残業時間数と、それに対応する固定残業代が明確に定められている必要があります。 |
固定残業代が通常の残業代を上回ること | 固定残業代として支払われる金額が、通常の残業代計算で算出される金額を下回ってはいけません。 |
上記要件を満たしていない場合、固定残業代は無効となり、実際に働いた時間外労働に対して、改めて残業代を支払う義務が生じます。たとえば、労使協定を締結せずに固定残業代を支払っていた場合や、固定残業時間が実際よりも著しく短い場合などが該当します。
固定残業代制を導入する際は、上記要件を満たしているか、専門家へ相談するなどして慎重に検討する必要があります。
正しく運用して従業員との信頼関係を構築しようみなし残業代は、正しく運用されなければ、従業員のモチベーション低下や労使トラブルにつながりかねません。
企業は、法令遵守を徹底し、従業員との信頼関係を構築していくことが重要です。みなし残業代の導入は、メリット・デメリットを慎重に検討し、適切な運用を行うことで、企業と従業員の双方にとって有益なものとなります。注意点を踏まえ、健全な労務管理に努めましょう。
企業は、法令遵守を徹底し、従業員との信頼関係を構築していくことが重要です。みなし残業代の導入は、メリット・デメリットを慎重に検討し、適切な運用を行うことで、企業と従業員の双方にとって有益なものとなります。注意点を踏まえ、健全な労務管理に努めましょう。